汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


018


次の日、いつも通りの空気が流れ平凡な雰囲気がそこにはあった。朝練に富布里が来なかったのだ。レギュラー陣は朝から「居ないのか!キャッホウ!」と心を躍らせたが「いやいやただ来てないだけだから。」と成実が早々に否定したため、ボールを追う姿が遅くなった。(当社比)

「ねぇ、成実?」

「何でしょう、萩之介?」

朝練が終わって、クラスにて滝が話しかけてきた。そこに蠱惑的な笑みはなくただただ真剣な目があった。

「分かってるよね?」

「はい、分かってますよ?」

対照に成実は天女と表現しても間違いではない微笑みを滝に向けた。

「嘘ばっか。」

「はい、信じてますよ。誰よりも。」

「光栄だね。」

「嘘でしょう?」

「さぁ?どうだろう。」

「意地悪ですね。」

「成実には負けるよ。」

「失礼ですね。」

「富布里には負けるよ。」

「強いですね。」

「誰よりも。それが望みならば、」

「嗚呼、嬉しい。」

「で?茶番はいつ終わるの?」

「今日の放課後。」

「そっか。」

「また新しく始まりますよ。」

「嗚呼嫌だ。」

「フフフ、萩之介の嫌がる顔私は好きですよ?」

「僕は成実の楽しんでる顔が好きだよ?」

「あら両想い。けど何より、」

「「人の仮面が剥がれる瞬間が大好き。」」

「性格の悪いお方。」

「それほどでも?」

二人が微笑めばクラスは朗らかな空気になる。話している内容なんて重要ではない。重要なのは二人が並べば相乗効果でより美しく醸し出されるという事。

「あぁ…藤ケ院さんも滝君も美しい…。」

「このクラスで良かった…!」

そんな空気に毒されたクラスメイトが呟いた。

「そう言っていただけるととても嬉しいです。」

ファンサービスは忘れない。先ほどの微笑みよりもしっかり笑えばクラスメイトが卒倒する。その光景をあらあら、と言ったように眺める成実。満更でも無さそうだ。
授業が始まってもその空気は払拭されず、一日中成実達のクラスが朗らかな空気だった。成実が放課後を何より楽しみにしているため時間が経てば経つほど成実から醸し出される雰囲気は強い物になった。いつから成実は空気清浄機になったのだろうか。

「さぁ、成実。部活に行こうか。」

「はい、参りましょう。」

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