汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


007


「富布里さん、お待たせしました。」

「ぁー!成実ちゃんぉっそーぃ!」

次の日、成実がマネージャー室へ行くとそこには既に富布里の姿があった。

この文章だけを見ればやる気のある新マネとも取れるのだが、もっと詳しく表記すると、部屋の真ん中に位置してある机の上が化粧品、ファッション雑誌で埋もれ物の置き場が無い状態。そして持ち主である富布里はと言うと設置してあるソファーに寝そべってお菓子を食べながら雑誌を読んでいた。ここはお前の部屋か、と暴言を吐いてやりたい衝動に駆られたが、どうにか平常心を保って会話を繋ぐことに成功した。

「…申し訳ありません。クラスでの掃除をしていたもので。それにしても富布里さんはお早いですね。」

早く準備に来ている姿は評価する。だがしかし、ドリンクの一つでも作っておけばいいと思うのだが。マネージャーがするべきこと一覧やドリンクの作り方などは机の上にきちんと置いていたはずなのだが、富布里は読んでいないようだ。と言うよりその二つのモノは富布里の私物で隠されてしまっている。成実はそんな富布里の姿を横目にとりあえずドリンクの準備を始める。一緒にしましょうと言う言葉はかけない。自尊心を尊重してやる。やりたいと言ったらやらせるし、何も言ってこなかったら何もさせない。そして何もしていない姿はサボっているように見える。
偶然だよ。偶然。ワザとサボらせているなんてそんな。ねぇ?

「当ったり前まぇだょぉ!景吾達のカッコぃぃ姿をなるべく長く見てぉきたぃんだもん!」

「富布里さんは跡部のご子息をお慕いしているのですね。」

ボトルを準備して、

「そぅだょ!景吾が一番カッコぃぃの。王子様みたぃだょね!ぁたしゎね、景吾みたぃなカッコぃぃ男の子に囲まれて過ごしたぃの!」

「それは、とても夢の様なお話ですね。」

粉をそれぞれ好みの分量入れる。

「それぉ実現させるためにぁたしゎここに来たのぉ!」

「…確かに富布里さんの様な可愛らしい方はお姫様と言った名称がお似合いですね。」

常温よりもほんの少し冷えた程度の水をボトルの中に入れて、

「ぇ?ぉ姫様ぁ?そぉ!ぁたしぉ姫様なのぉ!成実ちゃんもそぅ思ぅ?」

「はい。そう思うからこそ、言った次第ですよ?」

蓋をして完成である。

「ぇへへへー、嬉しぃ。ぁ、ドリンクで来た?じゃぁぁたし、景吾達に届けに行くね!」

成実が作ってたドリンクを富布里は横取った。そしてそのまま跡部達に届けに行こうとする。しかし成実は見た。富布里の履いている靴はシューズではなく、ロリータファッションでよく見かける厚底のローファーであることを。

「え、あ!?待、待ってください。ローファーのままコートに行くのはどうかと思いますよ。」

思わず成実は富布里を制止させる。

「何ぃ?駄目なのぉ?」

「駄目と言いますか、マナーですよ。」

「ぇー、そんなのぁたし持って無ぃ。成実ちゃぁん、貸してぇ?」

「…どうぞ。サイズは違いますから転ばないように気を付けてくださいね。」

「ぁりがとぉ!」

富布里は成実からシューズを借り、意気揚々とドリンクを持って行った。手柄を横取りされた感はあるがむさい男どもに囲まれなくてもいいと思うと成実はその辺のことなど、どうでもいい事だった。むしろ富布里の笑顔は癒し的存在でもある。喋ったら台無しだか。それよりも成実的には私物を他人に使われた方がいら立っていたりする。ナルシ気のある成実にとって私物を良いように使われるのは嫌だと言う気持ちでいっぱいである。しかしあの小柄な富布里が成実の大きめの靴を履いているのだ。アンバランスでキュンとする。うっかりときめく。

「…あああああああ、クソ。外見が可愛いとすべてがあざと可愛い!」

正しい男の子の反応である。

「しっかし、まぁ…手柄の横取りはセオリー、か。あ、しまった。」

靴が大きいことは自然に注意することが出来たけど、成実の靴は普通の女子よりは大きいかもしれない。バレるか?しかし身長も女子にしては有る方な身長になるし、誤魔化せるか。
そして成実はシューズが無いためコートに顔を出すことが出来なかった。ローファーしかなかったもので、暇を持て余すので次の公演の演技の練習でもしようと思う。鏡が無いことが悔やまれるが、まぁ許容範囲内だ。

「えっと、こう…。」

曲を口ずさみながらゆっくりと舞う。一つ一つの動きをしっかりと、動きを確立していく。数か月後に迫ったものだ。空いている時間が一刻と惜しい。

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