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そして撫子が視線を忍足の方にやると忍足と目があった。 「……撫子、俺の言いたいこと分かっとるやんな?」 「…超、余裕。過去の出来事とデジャヴるわ。」 「それについては同禿や。」 「あの時も、今も、私の失態だね。私って学習能力ねぇのな。いいよ、来なよ。」 あの時とは撫子がまだ氷帝学園の生徒から認められていないとき。撫子がまだあだ名で呼ばれていないとき。撫子が虐められていたことを内緒にしていたときのことである。 その時の再現でもしているのかというほど、同じである。では次はどう言ったことをするのか。それは明確。 「ほな、遠慮無く…ッ!言うんが…遅すぎるやろうがぁあああ!」 「ッ…え゛ー…イッテェ。」 それは忍足が撫子を叩くと言ったもの。今回は遠慮無しに握り拳でいった。撫子もそれなりに覚悟していたので歯で口の中を切るといった二次被害は無かった。 「撫子様!?」 展開を知らなかった彼女が叫ぶ。 「子猫ちゃん、心配しないで。大丈夫だから。さぁ、忍足次はお前の番だ。」 「おぉ、来いや。」 忍足がチョイチョイと人差し指を曲げ挑発してくる。撫子は準備運動と言いたげに両腕を軽く振った。滝は察して、撫子の腕を離している。 「さぁ、選ばしてやんよ。…回し蹴りと、三重奏、どれがいい?」 「んなもんはなから決まっとるわ。回し蹴り、来いや。」 「んじゃ、撫子、いっきまぁあああ、すッ!」 有名な台詞を吐き、撫子の足の甲をは忍足の側頭を捉えた。しかし昔のように無様にも吹っ飛ぶようなことはなく、忍足は踏ん張り耐えた。 「ッ…なんや、昔よりも強うなっとるやん。」 「お前こそ、耐久性完璧じゃん?もう一発いっとく?」 「ごめんこうむる。」 「残念無念。」 暫しそのまま。 撫子は足を下ろして、忍足と向き合った。少しの沈黙、それからいつもの空気。 「「……アハッハッハ!」」 「なんなんだよ、別れのけじめってか!?」 「デジャヴるから言うて殴り合いまでせんでもええやろうに、撫子はホンマカッコええわ。」 「あ?知ってる知ってる。私って格好良いのよ。つーか、今男気全開みたいな?殴られ痕もあって色男?」 「んなアホな。色男っちゅーんは紅葉痕の事やろ。」 「マジかよ。忍足そこは配慮してくれよ。」 「そこまで気ぃ回せるわけ無いやろ。ちゅーか男女の喧嘩でグーパンチとか俺は男として最低で、回し蹴りとか撫子、自分ほんま女か?」 「よく言われるわ。私、真剣に生まれてくる性別間違えたわ。」 「……ホンマやな…そんな決断力、男や。」 「……。」 「意志は、決まっとるんやな?」 「…うん。私はアメリカに行って学ぶ。」 「そか…やったら行ってきぃ!」 トン、と忍足に背中を押される。撫子は二、三歩前進した。後少しでゲート、所謂金属探知機である。ゲートを見据え、歩き出す。みんなの方は見ずに、撫子は言った。 「行って来ます!」 ゲートをくぐって撫子は更に奥を目指そうと踏み出した。 しかし、その足はその場に下ろすことになった。 「…おい椿崎!」 「…何さ?跡部。」 ここに来て今まで沈黙を貫いてきた跡部が発した。 「逃げ帰ってくんなよ。」 「…ッあったり前じゃん。私を誰だと思ってるの?」 撫子が上半身だけ捻って後ろを向いた。撫子はドヤ顔を披露して、みんなは微笑んだ。 「「「…椿崎撫子!」」」 撫子の問にみんなが答えた。 「分かってんじゃん?何様俺様私様、椿崎撫子様だよ。シーユーアゲインハバナイスドリーム!」 |
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