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撫子は着ぐるみを脱ぎ、投げ捨てた。そこから現れるのは本物の撫子。コピーキャットと存在感がまるで違う。 「マイクチェック1、2?違う違う。私のキャラはそんなのじゃない。どちらかと言ったらマイクチェックの時間だコルァ!」 撫子が雄々しく叫び、それを合図に曲が流れ始める。マイクをしっかり構えて歌い出す。先程までの録音ではなく、生の歌声。迫力が違う。踊りのステップ、体幹の動き、指先までの小さな動き、完成した動きを披露する。 そんな光景を間近で見てしまった女子は先ほどまでの勢いはどこかへ飛んでその場へへたり込んでしまった。観客は何事か、と始めは訳が分からないようだったが、撫子を羽交い締めにした女子が桜となり、「コピーキャットだった。今歌っているのが本物だ。」と言ってざわめきは止まった。少しの間だけではあったが、撫子のプチライブを楽しむことになった。 歌い終わって撫子は一礼。それから体育館の中は大きな拍手で包まれた。 「えー、今日はありがとうございました!こんなに大勢の前で歌ったことは今回が初めてで心臓が口から飛び出してしまいそうです。」 定石な言葉を言って撫子は女子に目をやる。女子は絶望に打ちひしがれており、ごめんなさいとか虐められるとか口走っている。撫子はその光景を見て頭を一かき。 「んー…今回、私の名前をこの子猫ちゃんが騙っていて、と言う情報はご存知でしょうか?」 はいー!と返事がこだまする。 「おk。でもそれはわざとです!仕込みだったんです!」 そう発言したらまたもや体育館の中はざわめきでいっぱいになる。今回はテニス部も女子も一緒になって。 「私はこう見えて小心者なんでここで歌う前に見ず知らずの人に囲まれたりなんかしたら、色々と無理でした。ですので、私はメル友のこの子に頼んで身代わりになってもらったんです。先程のいざこざも仕込みです!混乱させて申し訳なかったです。でもみんなのその反応を見るのはとても楽しかったです!では私は引っ込みますので、縁があったらまた会いましょう!」 撫子は脱兎の如く舞台袖へ。 「撫子さん優しすぎますわ!」 「私は女子にはとことん優しいんだぜ!それに、必要以上に蔵さんとベタベタしてたっぽいし私のせいで虐めに遭わせたくないし。」 「部長、タイまで旅費何円ですか?」 「財前、はやまらんの。」 「それにねぇ…。」 「なんや?」 「えー。皆さんが、幸福なのは義務なんです!果たしてますか?」 「「果たしてます!!」」 「フ、満足。さて…私はここから逃げることが出来るかな?」 正体を現したことで、かなりの人数が出入り口に待機しているだろう。 「あー…。」 「と言うわけで謙也君。後は任せた。」 撫子は手に持っていたうさぎの着ぐるみを謙也に手渡して、謙也はそれをとっさに受け取ってしまう。 「へ?」 「浪速のスピードスター、期待してるぜ!」 小春と一氏によって着々と着ぐるみを着さされていく謙也。 「謙也、グットラックや。」 「謙也さん、簡単に捕まらんといて下さいよ。」 「え、えっ…うわー!ノースピードノーライフやぁああああ!!」 着ぐるみの短い足をちょこまかと動かしながら出入り口を飛び出す。出てきたぞー!と言いながら謙也を追っていく四天宝寺生。居なくなったところを狙ってみんなが出て行く。 「ほな…行こか。」 安全に撫子達はテニス部部室まで向かっていった。 「あれ?でも着替えは教室の方に…。」 「あぁ、着替えは全部平に部室まで運んでもらったんや。こうなることは予想出来とったしな。」 「…用意周到すぎて全俺が泣いた。」 「まぁ、謙也がホンマにうさぎの役やってくれるやなんて思わんかったけどな。」 「…謙也君は貴い犠牲になったのだ。弔いの意を用いて何か一本小説をうpするべきだろうか?」 「いや、必要ないやろ。それより俺はこれからオリジナルGL連載で新キャラとして謙子を投入したろう思っとるんやけどどうやろう?」 「何ソレ激しく読みたい。女の三角関係とかどんだけおどろおどろしいものが誕生するのか。」 |
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