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舞台上、「おめでとう」と言いながら拍手をして何分経っただろう。もう王子が登場してもいい時間にはなっているのに、一向に姿を現さない。 「どうしたんだ?弦一郎…まさか他校生だからと言って怯んでいるのか?」 柳がボソッと呟いた。 「…どう言う事っすか?」 「この後シンデレラと王子はキスをするんだ。」 「な!?聞いてないっすよ、そんなの!」 舞台を壊さない様にと、とりあえず小さな声で反論。 「言ったらやらなかっただろう。大丈夫だ。フリをするだけだ。」 「この台本考えたの誰!?」 「俺だが?」 「アンタか!」 「この年頃は禁忌に手を出したくなるものだ。殺人も禁忌だが、それよりもこっちの方がより身近だろ?」 「そう言うこと言ってんじゃねーよ糸目。」 リョーマがフリと聞いても顔を青くすることは止めず、少しずつ逃げようとしていた。 「おーっと、逃がさんぜよ。」 そうはさせまいとディフェンスをかます仁王他。 「チッ!」 リョーマは盛大に舌打ち。逃げ場など無い。 「嗚呼!シンデレラ!この日をどれだけ待ち望んだか!」 舞台袖からついに王子が登場。やっと物語が動く。 「王子、連れて参りました。シンデレラで、す…?」 柳が順調に台詞を言っていたが、何かに驚き言葉がたどたどしくなった。さらには開眼。同じくして柳以外も目を見開いている。何故か? それは王子が撫子になっているからだ。 「ちょっ、椿崎おまん!?やぁぎゅ、なんで椿崎が王子になっとん?真田と違うんか?」 「私に聞かれても…。」 そんなコソコソとしたやり取りを聞いた撫子は、してやったり的な笑みを浮かべた。そして何事もなかったかのように劇を続ける。 「貴女が、あの時私と踊って下さった…。シンデレラ、…私は一目見たときから貴女の虜になってしまった。どうか私と結婚して下さらないか?」 「え、ちょ撫子さ――!?」 「ちょっとリョーマ!マイクが声拾っちゃうでしょ!?」 撫子が慌ててリョーマの口を手で塞ぐ。幸いにも舞台に設置してあるマイクは床に置いてある物で、リョーマの声は拾っていなかった。 「シンデレラ…卑怯な私を許してくれ。結婚を申し出た私だが、断られる事も勿論視野には入れていたのだが、愛する者から拒絶される言葉は聞きたくない。どうか、私の妻に――。」 椿崎は塞いでいた手を外し、リョーマに顔を近づけていく。 「椿崎、さん、待ッ。」 「大丈夫、ちゃんと寸止めするから。」 目を閉じて、 近づいて、 互いの存在を知って、 そして、 「―――――ックゥ…。」 「え、ちょ、ま、シンデレラァア!?」 周りからキスしていると思わせる距離にならない所でリョーマの意識がログアウト。キャパオーバーだったらしい。 『こうして王子様のフェロモンにやられたシンデレラはお城に住み、王子様ゾッコンラブになりながら幸せに暮らしましたとさ。』 おしまい。 幕が降りる。観客席からは拍手喝采。どうやら演劇は成功に終わったらしい。 「ハッ!?俺はいったい…?」 幕が降り、その後すぐに目を覚ましたリョーマ。 「あ!リョーマ、気が付いた?劇終わったよー。」 「あ、あ…っ俺着替えてきます!」 リョーマは撫子の元から一目散に離れ、着替えてくると。すれ違いに幸村が登場。 |
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