102 |
「あー…今日は立海に行かなきゃならんのか…。」 ついに土曜日、幸村の呼び出しを食らっていたので早い時間に起きた。 普通に学校に行くよりも早い時間に起きなければならないこの苦痛。この苦痛はイベントor撮影会の時だけで十分だと言うのに。今日のこの苦痛はただただダメージを受けるだけである。イベントとかでの早起きならこの先に萌えがあると考えれば苦痛なんてそんなの無い無い。快楽へと変換冴える位の技は持っている。 ここでグダグダ文句を言っても不毛なだけでなので撫子はジャージからパンピ変装用衣装から服を取り出して着替えて、簡単にご飯を食べて、長い髪の毛を頭のてっぺんで縛りいつもの髪形へ。 それから気合を入れて、 「…フゥ―…行くか。」 自費で電車代を払って電車に乗って立海駅に到着。 ここから歩いて立海大に向かうだけなのだが、なんだかとても面白くない。と感じてしまった撫子。 「…普通に行っても面白くないよなぁ……。」 鞄からケータイを取り出しそして非通知設定に、 アドレスから一人の人物の電話番号を選択し、かける。 「あーぁーあ゛ーぁ、」 ケータイから呼び出し音が聞こえている間に声を変える準備をする。変える声は撫子が一番怖いと思っている声優さんの声にすることにする。 それから間もなく、呼び出し音が止まり、目的の人物の声が聞こえてきた。 『…誰じゃ?』 それは独特の方言を操っている仁王雅治。 「もしもし?アタシ貴方の敵なの、今立海駅に居るの。会いに行くから待ってて?私からの電話出てくれないとイヤ、だからね。出なかったら…キャハッキャハハハハハハハァア!!」 『ヒッ!?』 仁王の短い悲鳴を聞いてからワザと荒々しく通話を切った。顔は見えなかったけど、恐怖を抱いていると思われる仁王を想像するとなんだか、とても楽しいものがあった。 「……うん、登場のマンネリ化って良くないと思うんだ。」 常にケータイを片手に構えながら立海大を目指し歩いて行く。 「もしもし?アタシなの。今、コンビニの前に居ルノ。」 「もしもシ?アたシ。今、公園ヲ横切ったの。」 「モしもシ?あタし。今、痛車を見カケたわ。」 等々、実況中継をしながら進んだ。少しずつ声の質を機械チックに変えていく。ちょっと難しいものがあるが、嫌がらせの為には全力を尽くさせていただく。人事を尽くして天命を待つ。 仁王の返事がだんだん近づいていくうちに上擦った声になっている。律儀に返事をしてくれているところが萌えポイントであると言うのに、さらに上擦っていくだなんて、薄い本が厚くなっていく。 「モシモシ?アタし、今、立海大の裏門のところにツイタノ。」 さてさて、クライマックスである。 わざわざ裏門に回ったのは、あれだ。裏門って言った方が怖いからである。 そんな、実況をなるべく長くしてやろうと慣れない土地で遠回りした結果、少々道に迷い、やっとの思いでたどり着いたのが裏門であったなんてことはない。 それから部室まで辿り着いた。この中に仁王を始めとする立海メンツが居るはず。仁王以外も怖がらせてしまうかもしれないが、それはそれでご愛嬌。 後で説明すれば幸村も許してくれるはず。楽しい事には撫子と同じく全力を尽くすタイプだと思われるから。 問題も自己完結させて、いざ、部室の扉を爪でカリカリ、カリカリと引っ掻き開始。 「イマ、アナタノイルブシツマデコレタノ、ホメテホシイナ。ネェ、アケテ?アケテヨ…アタシヲ、ホメテ!ネェ、ネェネエ!ネェッテバァアア!!アタシアタッアタシアタタタタタうがッ!?」 なかなか開けてくれない立海メンツ。ここまで来たら後には引けない。出てくるまで言い続けるし、引っ掻き続ける所存である。しかし、いい加減出てきてほしいものがある。ので、半分逆切れで引っ掻く音からドンドンと扉を叩く音へと変更。 そして間もなく、撫子の目の前が真っ白になり、さらに星が飛んでいた。 「誰じゃ!?俺、怖ぉ無いけんな!誰じゃぁ!!」 「しくった…このドア、外開きかぁっ!」 そう、やけになった仁王が部室の中から飛び出してきて、その時、外開きの扉が撫子の頭にジャストフィットしてしまったのである。 「………椿崎!?なんでおまんがこんな、倒れとるんじゃ!?」 「貴様…ッ反撃かぁあああああああああ!!」 痛みを通り越して、怒りが生まれた。 「あんたね、ドアはゆっくり開けないとダメだろが!今までに教えられてなかったのかよぁあん!?頭かち割れるかと思ったわ!」 「椿崎が悪いんじゃ、そんなメーリさんのマネなんてしよってからに。」 「…登場のマンネリ化って良くないと思うんだ。」 「あれ?椿崎さん。なんで敷地内に入ってるの?」 後ろから声がした。 振り返ってみると、仁王以外の立海レギュラー陣が立っている。 「あれ?なんで後ろに幸村君が…。」 「俺達正門まで迎えに行ってたのに…無駄にしてくれたね。」 まさか、わざわざ正門で出迎えてくれる体制をとっていたなんて知らなかった。むしろ部室で皆だらだら過ごしているかと思っていたのに。それは大きな間違いであった。 撫子は死を覚悟してにっこりと笑っている幸村に対して、五体投地を行った。 「まっこと申し訳ありませぬッお館さまぁああああああああああああ!!」 |
<< TOP >> |