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01

エドワードが全てを取り戻したのは16の時だった。
その後しばらくはアルフォンスのリハビリを兼ねてリゼンブールに留まり、更にその後、アルフォンスとは別ルートで旅を再開した。
エドワードもアルフォンスも未だ未成年だった為、ロイがそれまで同様後見人を務めていたが、国家錬金術師の資格は返上し、ただの民間人として研究の旅を続けるエドワードの足が自然と司令部から遠退いてしまったのは、当然といえば当然の事だった。

軍人と民間人との間には越すに越せない隔たりがある。
それでも律儀な子供達は、数ヵ月に1度程度の連絡を寄越していた。
よって、新たな旅の1部はロイ達の知るところとなり、直接会う事はなくなったが、その元気な様子は伝わってきていた。
初めこそ顔を見られない事を寂しがっていたロイの古参の部下達も、やがて愛しき子供達が穏やかに幸せに暮らせる事を心静かに祈るようになった。


―――のだが。
更にその後、何の前触れもなくロイ達の前に突然エドワードが姿を現したのだ。


「なぁ、少将。どっか良い就職口ねぇかな?」


という台詞と共に。








「なんだね、君は。久しぶりに顔を出したかと思えば、藪から棒に……」
「話せば長くなるんだけど……とりあえずアルをセントラル大学の医学部に入れようと思って」

ニッカリ笑ってそう言ったエドワードは、会わなかった4年の間にすっかり様変わりしていた。
もとより性別を偽っていた訳ではないが、その勇ましすぎる言動から鋼の錬金術師は男だと認識していた人がほとんどだったのだが、今やエドワードを男だと思う人間はいないだろう。
金色の艶やかな髪は背中の中ほどにまで伸び、相変わらずスレンダーな体型はそれでも丸みを帯び、白く滑らかな肌は目に眩しい。
元々整った顔をしていたが、年頃になり更に綺麗になった。
彼女を見知っているはずの門番が「本人か確認してほしい」と言ってきたのも無理はない、とロイは思った。
それほどまでに変わってしまっていたのだ。

「最近、旅もしにくくなってさ……まぁ、回るべきところは回ったから良いんだけど。んで、仕方ないからリゼンブールに帰ろうかとも思ったんだけど、無職のまま研究を続けるのも無理があるし……そしたら、アルが医者になろうかな、って言うからさ。ちょっと手助けしたいなって」
「で、職探しに?」
「うん。奨学金制度は活用させてもらうつもりなんだけど、学費以外にもいろいろと金がかかんだよ。どうせなら勉強に集中させてやりたいし、じゃあ俺が働くかって思ってさ。少将、顔広いからさ……どっか良いとこ知らねーかな?いかがわしいとこは勘弁だけど」
「いかがわしいとこ、とはどういう意味だ」
「少将詳しいだろ?」

ニヤリと笑った顔はよく見知った小憎らしい子供の顔で、その事にロイは何故かホッとした。
まるで見知らぬ女性のようにすっかり変わってしまったエドワードには、先ほどからどうにも落ち着かない気持ちにさせられているのだ。
それは一体どういった感情の現れなのか、しばらく考えてみたが、ロイにはよく分からなかった。

「しかし、旅がしにくくなった、というのは?以前と比べれば国内の治安は良くなったはずだが…」

国の体制は変わっておらず、アメストリスは相変わらずの軍事国家には違いないのだが、時代の流れにそった変革期を迎えている。
官民の相互理解に努め、軍による弾圧などは影を潜めた代わりに、凶悪犯罪やテロの発生は減ったのだ。
エドワード達が賢者の石を求めて旅をしていた頃と比べると、明らかに今の方が治安が良いはずだ。

「え〜…むしろ悪くなってねえ?だって俺、どこ行っても絡まれんだぜ?俺がどんな金持ちに見えるんだか知らねーけど、飯をたかりにきたり、宿まで追ってきたり、こんな旅行者から強盗働こうとするヤツがわんさかいるんだぞ?どいつもこいつも見た目普通の格好してるんで、つい油断しちまうんだけどさ…」
「君、それは……もしかしたらナンパされているのではないかね?」
「はあ?んな訳ねーだろ」

ケロリと言い放ったエドワードに、ロイはため息を吐いてうなだれた。
エドワードは力一杯否定したが、おそらく食事に誘われたり、口説き落とそうと宿まで押し掛けられたりしたのだろう。
昔からそうだったが、この子は自覚が足りないのだ、とロイは思う。
どこから見ても美しく女性らしく成長したというのに、きっと昔と同じような旅のスタイルで通していたのだろう。
よくぞ今まで無事だったものだ、と思わず胸を撫で下ろした。

「なぁ、そんな事より就職口ねぇの?」
「あ、あぁ……」

器用だし頭は良いし、エドワードならどんな仕事も難なくこなすだろう。
だが、如何せんこんな無防備な小娘、野に放てる訳がない。
ロイの内心の葛藤は一瞬だった。

「軍の、錬金術研究所が研究員を探している」
「軍の?」
「私も君にはあまり軍に関わってほしくはないのだが……まぁ、研究所自体は軍属だが、研究員は軍人ではないし徴兵の恐れは全くないから…」

それに何より、自分の地位でもってエドワードを守ってやれる。
それは口に出さずに見返せば、エドワードはブツブツと複雑な顔で何やら呟いていたが、やがて重要な事柄を問い質すように口を開いた。

「そこでの研究って、軍事兵器に纏わるようなもの?」
「いや、どちらかというと国民生活の豊かさに貢献するものだな」
「……そこ、給料良い?」
「まぁな。多分、民間の研究所などとは比べものにならんだろうな」
「ふぅん……じゃあ、そこで良いや」

てっきり何かしら反抗されるものだと思っていたのに、疑う事を知らない幼子のような妙にあっさりとした返事が返ってきて、ロイは驚いた。
これはあれだろうか、自分はこの子から信用を得ているのだと喜べば良いのだろうか。
それとも、少しは疑う術も覚えなさいと嗜めるところだろうか。
というか、今までよく無事だったねと呆れるべきだろうか。


ロイは、説得する手間が省けて良かったと思うのと同時に、ここまで幼くてこの子は本当に大丈夫なのだろうか、と頭を抱えたくなった。



2010/11/03 拍手より移動

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