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〈side 八雲〉

▼△▼
今年も、もう残り数ヶ月のある日。
ちょっとした散歩のつもりで、自身の区を歩いていた。
しかし先程から、僕が歩くのと同じ速度で進む足音が、後ろから聞こえる。
ペタペタと音がするので、それは裸足のようだ。
多分、つけられているのだろう。
僕は気づいていないフリをして、そのまま歩を進める。
ペタリペタリと、その足音はずっと付いて来る。
しかも、時折小走りになったり飛び跳ねたりしている。
楽しんでいるような感じにも、とれる。
尾行に気づいて欲しいのか、はたまたそうでは無いのか。
ただ、いい加減鬱陶しくなってきた。
初めこそ面白がっていたけれど、向こうがここまでしぶといとは思わなかったから。
ちょうど曲がり角に出くわしたので、パッと右に曲がった。
後ろの足音の主が慌てて駆け出すのが聞こえた。
それは、僕と同じように角を曲がった。
が、そこに僕は居らず、ソイツはキョロキョロと辺りを見回している。
何故なら僕は、曲がった後すぐに上に飛んで、そこから様子を見ていたのだから。
尾行していたのは、予想していた通りの奴だった。
上から、ソイツの背後にそっと飛び降りる。

「...なんのマネ、かな」

後ろから声をかけると、大袈裟な程に肩をビクリとさせた。
そしてソイツは、恐る恐る僕の方へと振り返る。
なんとも言えない表情をして。

「バレてない気でいたの?」

僕はもう一度、ため息まじりに声を発した。
振り返った彼女は、明らかに動揺している。
どうやら、バレていないという自信があったらしい。

『やっぱりダメかぁ...』

あはは、と頭を掻きながら笑っている女の子。
僕をつけていたのは、その少女だった。
この子は、僕が気まぐれに拾った子。
何時だったか、そこらに転がっていたのを偶々見つけたんだ。
そこから、何故かとても懐かれたのでウチに置いている。
いや、単に捨てられないだけなんだけど。

『次はバレないようにするね!』

こちらの呆れ具合には気づいていないのか、次こそはと息巻いている。
次も何も、二度とゴメンだと思うが。

「それで、なんで尾行してたのかな?」

彼女...あぁ、名前は〈悠那〉という。
拾った時に色々あって記憶が曖昧らしく、覚えていた事の中に、その名があった。
多分、この子自身の名前だと思われる。
そして悠那は、悪びれもなく笑顔で言った。

『暇だったから』

「ふぅん、そう」

なんだろう、呆れを通り越して納得した。
その実、悠那はそういう子だ。
とにかく楽しい事が大好きで、一人が嫌い。
分かりやすい性格と、戦闘においての確かな実力を備えている。
僕としては、かなり好きな部類だ。
そして、彼女の方も僕を好いてくれている。
それは主従とか師弟とか、そういう類のものでも無い。
どちらかと言えば恋愛感情に似た、親子間の愛情のような。
まぁ何はともあれ、信頼できる子だ。

『あのね、八雲さん』

身長差がかなりある為に、僕を見上げる形で悠那が声をかけてきた。
彼女の両手は、僕の左手を握っている。
小さな手では僕の片手を握るので精一杯らしい。
こんなナリの僕が言うのはアレだが、存外可愛らしいと思う。
髪を縛っている黄色いリボンを揺らす仕草も、お得意のようだ。
そして、ニッコリと笑いながら言った。

『お腹空いたなぁ』

なるほど、そういう事か。
早く早くと、強引に僕の腕を引く。
女の子といえど喰種だ、それなりの力はある。
少し痛むような左手を引かれ、悠那の後をついていった。

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