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- ナノ -

金木



▼△▼
ー食物連鎖の頂点とされるヒトを...
ー“食糧”として狩る者たちが存在する...

薄暗い路地裏を、男が逃げる。
肩で息をするその男は、壁際に追い詰められていた。
彼に襲いかからんばかりに忍び寄る、黒い影。

ー人間の死肉を漁る化け物として
ー彼らはこう呼ばれる...

頼む、見逃してくれと懇願する男。
涙を流し、哀れなほど震え怯えている。

ー「喰種」と。

喰種は、嫌だと嘲笑った。


▼△▼
20区にある喫茶店〈あんていく〉。
程よく賑わっている時間帯に、二人の青年も加わっている。
ヒトである彼らは、喰種について何やら語り合っている。
黒髪の青年は、大人しい印象を受ける。
対する金髪の青年は、明るく活発な性格のようだ。
程なくして、話題は女性に関しての事に移る。
この喫茶店に来るカワイイ子、とやらがお目当らしい。
金髪の青年が、店員である女の子に恋人の有無を問うている。
その子は困り果てて、オーダーを取るや否やすぐに戻ってしまった。
黒髪の彼が、金髪の青年を諭す。
すると、話題のカワイイ子らしき人物が入店してきた。
控え目に言っても、かなりの美人さんである。
すると金髪の彼は、黒髪の青年の肩を叩き、諦めるように伝えた。
黒髪の彼は心外だという顔をしている。
そのまま金髪の彼は代金だけ残し、店を去った。
渦中の女性は、黒髪の彼が読んでいるモノと同じ本を読んでいた。
視線が合うと、女性は青年に微笑む。
そこからは、まるで漫画のように事が運び、二人で会うという約束も取り付けた。
その後知った彼女の名は、神代利世。


▼△▼
夢の本屋デートを終え、青年は彼女と昼食を摂る。
互いにオススメの本を紹介しあったりと、とても楽しい時間を過ごしていた。
その帰り道、血液型や読書の傾向が似通っていると話題が弾む。
彼は会話ばかりに気を取られ、人気のない場所へと向かっている事に気がつかない。
ふと、神代利世が立ち止まった。
そして黒髪の青年へ向き舞う。

「ホントは 私気づいてたんです...」

「あなたが私を... 見ていてくれたことを...」

そう言いながら、歩み寄っていく。
ひしと抱きつくと彼女は、

「あなたを 見てたの」

そう言って、青年の肩を齧り取った。
彼は、うまく状況を理解できていない。
神代利世の変わった眼を見て、彼女が自身を喰種と言ったことを。
彼女の背からは、うねうねとした何かが生えている。
これら全てを理解するより早く、彼は駆け出した。
その逃亡は許されず、青年は神代利世に捕まる。
腹を突かれ、無人の工事現場に放り投げられた。
鈍い音を立て、壁に強くぶつかる
青年の意識は朦朧とし、今にも息絶えそうだ。
神代利世は、そんな彼に優しく微笑む。
彼女は、頭上で揺れる鉄骨には気づかない。

「今週喰べた二人とどっちが美味しいかしら...」

上を、見上げた。

「......あら?」

激しい衝突音が、辺りに響いた。
神代利世は、逃げる間もなく下敷きになっている。
青年の薄れゆく意識の中で、音を聞きつけた。
誰かが、助けを呼ぶ声が聞こえたような。


▼△▼
あの青年が次に目覚めたのは、とある病院のベッド上だった。
彼は、奇跡的に生きている。
そして、彼の目覚めと同時に、この長い物語は幕を開ける事になる。
物語の主人公は、読書好きの平凡な大学生。
どこにだっているような、普通の青年。
彼の名は、金木研。
彼が主人公をあてがわれた、その物語は。

そう、それはきっと...。
”悲劇“だ。

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