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心算



〔side 悠那〕

▼△▼
隻眼くんがアオギリに連れてこられてから数日。
八雲さんに、この場で待っていろと言われた。
なので私は、ここでノロさんとお話している。
お話と言っても、彼は全く喋らないので私が一方的に語りかけているだけだ。

「そう、そしたらね、こう、ドカンって」

この前闘った、二人の白鳩の話だ。
背の高い堅物そうなお兄さんと、姿勢の悪い白髪のおじさん。
白髪のおじさんは、見た目以上に強くって驚いた。
でも、あのネチっこい戦い方は好きじゃない。
喰種をクズ扱いして、ゴミを見る目で見てきたから大嫌いだ。
まだお兄さんの方がマシだったように思う。
身体に見合った大きなクインケをぶん回していた。
本来戦うつもりは無かったので、2分だけお相手をしていた。
もう少し楽しみたかったけど、八雲さんに帰るよと言われては引き上げるしか無かったしね。

「八雲さんはね、すごく強いんだよ」

勿論ノロさんも強いよ。
そういえば、ノロさんは少しだけ嬉しそうにした気がする。
フルフェイスのお面をしているから、分からない。
ただ雰囲気で何となく、だ。
その後も、アヤトくんにお姉さんがいた話とか、色々語りかけていた。
時々、クビが縦に動くので、うんうんと相槌をうってくれているのだと思う。
断じて、寝ているのではないと思いたい。

「ノロさんのお話、聞きたい」

そう言ってみた。
ノロさんは、不思議そうに首を横に傾けた後、イヤイヤと横に振った。
つまらないからなのか、どうなのかは分からない。
話したくないとの意思表示なのかも。
どうにかして話してもらおうと、私が首を捻っていたら、突然名前を呼ばれた。
パッと振り向けば、八雲さんが立っていた。

「ごめんねノロ。うちのが迷惑かけた」

それから私に、行くよと言った。
ノロさんは黙ったままだが、私はその沈黙に促されているように感じた。
ありがとうとノロさんに告げてから、八雲さんの左手を捕まえた。
それを確認した八雲さんは、歩き出した。
この方向だと、調理場辺りにでも向かうのだろうか。
調理場というのは、下っ端の喰種達が狩ってきた食材を解体する場だ。
解体場という説明の方が正しいかもしれない。
そこの入り口近くに立つだけで、中には入らないらしい。
八雲さんの大きな身体に隠れて、そっとなかを覗き見る。
あぁ、あの隻眼くんがいる。
八雲さんのお目当は、彼なのかもしれない。
何か思うところがあるのか、じっと見つめていた。

「ゲーッ、これ絶対ヤモリさんが殺った奴だろ」

中にいた一人が、大声を発した。
すごく嫌そうな声なのはわかる。
そして、その後続けて彼の悪口を言ったのも丸聞こえだ。
明らさまな殺気を纏い、中に踏み込もうとしたが八雲さんに肩を掴まれた。

『アイツ八雲さんの悪口言った許さん』

だから殺してくると言えば、やめなさいと窘められる。
気が短いのは良くないと何度も言われたのは覚えている。
けれど、こればかりは譲れない。
好きな人の悪口を言われるのは我慢ならないから。

「悠那。怒ってくれるのは嬉しいけど、面倒は起こしたらダメだよ」

これだけ言われてしまえば、従う他なかった。
ごめんなさい呟き、下を向く。
分かればよろしいとお許しを貰った。
そうして、彼は何かに満足したのか再び歩き出した。
私も、その背中を追った。


▼△▼
ここは、八雲さんのお部屋。
部屋と言っても、ただ広い場所があるだけ。
市松模様のタイルが敷き詰められている。
そこに置かれた簡易的な椅子に、ニコ姐が腰掛けている。
私はその横の地べたに座り込んで、正面の八雲さんを眺めてみる。

「...ねぇニコ、悠那」

「なぁに?」
『ん?』

突然の問いかけに、ぼんやりと返事した。
見えるのは、彼の背中だけ。

「【隻眼】って壊れにくいかなぁ?」

そう言って振り返った八雲さんは、見たこと無いくらいこわい顔だった。
こわい顔なのに、ひどく楽しそうな声色で、私は背筋がゾクゾクした。
同時に、これから起こる事が良い事なのか悪い事なのか想像できなかった。

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