Eques.
陥穽班


「たっ、只今撤退とのご命令を!並びにフェリックス分隊長率いる隊は30分の時間を稼ぐようにとのこと!」

伝達の報告を聞いて、蒸れて痒い右目を眼帯の上から掻く。あんまり意味ないんだけどね。
僕だけ今の今まで巨人の討伐に行って帰ってきたところだったのを、タイミングがいいんだか。
ありがと、とだけ伝達に言って下がらせて、隊員に気合いを入れてやる。

「今回は30分なんだってさ。壁外調査より何倍も楽だと思わない?ウォール・マリアには建物が沢山あって立体機動が役に立つしね。――――まぁ、死んだら君たちの力量不足だよ。僕が直接指導したんだから死ぬことはないよね?」

クスリと笑みを溢して言うと、もちろんですと元気な返事が返ってきた。

「それじゃあ、30分。頑張ろうか」

ざっとみんなのコンディションを確認すると大丈夫みたいだ。新兵二人を引き受け、残りの三人で班を組ませる。
僕の跳躍を合図にみんなが巨人へと翔んだ。










ウォール・ローゼの扉付近に巨人が群がってる。多分、撤退で人がいるからかな。あの巨人を引き付ける旨を後輩二人に告げ、奇襲をかけた。

「おーにさん、こっちらっと」

近くにいた2体の巨人のうなじを切り落とし、ジャケットの裏に忍ばせていた短刀を離れている巨人に投げつけて注意を引く。後輩くんたちも頑張ってくれてるみたいで、そこにいた巨人、10体を誘き寄せた。
近付いてくる巨人にまだだ、と自制していると、後輩一人がパニックを起こして逃げ出した。
めんどくさいなぁ、もう!

「あの子を追って!合流でき次第、壁を登っていいから!」

顔を真っ青にした後輩がこくこくと頷いて、後を追いかけた。結局、一人で10体を相手にすることになったじゃん。
はーっと長い息を吐いて、ガスを使わないで巨人から逃げる。誘き寄せるのが仕事だからね。捕まえられそうで、捕まえられない距離感で逃げないと。諦めそうな巨人は短刀を投げて、注意を引く。
とりあえず、扉から一番遠い場所に誘き寄せよう。

「ほらほら、頑張ってー!じゃないとつまんないでしょ?」

今、装備してるなまくらになりかけた刃二枚を先頭の巨人に投げ付ける。甲高い悲鳴を上げて、速くなった巨人から逃げる。
この分なら30分もしないで戻れるかも。帰ったら何をしよう。
なんてことを考えていたら随分遠くに来てた。これくらいでいいや。そう思って、行動範囲を屋根の上から地面すれすれの超低空に切り替えて巨人を巻く。
ある程度距離を取ってから、屋根上に移動していると、赤い煙弾が上がった。僕たちの撤退の信号だ。
どうやら30分もかからなかったらしい。遠目からでも扉付近に巨人がいないのが分かる。
久し振りに飛ばそうとガスを噴出しようとした瞬間、悲鳴が上がった。もちろん自分の隊以外考えられない訳で。
見ると、逃げ出した新兵が右足から血を流して尻餅をついている。5m級の巨人から後ずさって。
マズいな。早く処理しないと巨人が集まってくる。
急いで新兵を掴み上げた巨人の項を削いで、新兵を俵担ぎで撤退する。

「大丈夫?ケガは足だけ?」
「はっ、はいっ!!ありがと―――」
「礼はあと!ここから全速力で逃げるからちゃんと掴まって、舌噛まないでよ!!」

返事を聞く間を惜しんで立体機動で一気に扉までの距離を詰めていく。
あと1q。
そんなときに風圧に耐えきれなくなった新兵がバランスを崩した。慌てて身体を掴んだけど、ワイヤーを出す暇がなくて地面に叩き付けられた。

「掴まってて、って、言ったでしょ」
「す、すいません!!」

身体を引いたやったお陰で怪我しなかった新兵の頭を叩く。ぼやける視界に頭を振って、新兵を担ぎ直して壁を登った。
さっきのお礼とは言わないけど、新兵を地面に放り投げた。べたつく額を拭っていると、タオルを投げ付けられる。
放物線を辿ると、そこにはリヴァイ兵長がいた。
ありがとうございます。
そう言って拭うと、タオルが赤く染まる。

「弱ぇ奴が戦場に出るからだ」

眉間に皺を寄せて、目を合わせてくれない兵長に苦笑いでごまかす。

「ま、でも結果オーライでしょう?生きてるわけですし」

ニコニコといつも通りの笑顔で言うと、鼻で笑われた。

「いやー、お疲れさんっ」
「あ、ハンジ分隊長」

後ろから思い切り背中を叩いてくるのはハンジ分隊長。
「もー、そんな固っ苦しいのいいし、分隊長同士でしょー。」
そう苦笑されても困ります。

「いつもながらありがとね」
「それは私からも言わせてもらおう」
「団長」

形式上、敬礼をすると手で制された。ちょっと頭がふらふらするから断りを入れて地面に座る。思い出したようにハンジ分隊長が救急箱を待ってきて処置をしてくれる。

「それにしても、団長。どうしてウォール・マリア奪還を?兵力もないのにこんなことしたら――痛っ、死ににいくような――――」
「ここで話すのは止めてもらえないか。……君たちに話さなければならないこともある。場所を変えよう」
「そうだね。ちょうどメルの応急処置も終わったし」

ニッと笑ったハンジさんにお礼を言うと、三人とも移動し始めた。リヴァイさんが急かすように差し伸べた手を握って立った瞬間、視界がブラックアウトした。



―――意識を失う瞬間に見えたのは少し驚いたリヴァイさんの顔













※陥穽【カンセイ】…人をおとしいれる策略。わな。




[ 戻る ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -