Eques.
名前

「んー…、よく寝たぁ」

欠伸をしながら階段を下りてきたメルヴィンをリヴァイ班が迎える。席に座って目線をあげるとハンジが当たり前のように座っていた。

「ん?おはようございます」
「おはよー。今日はちゃんとおはようの時間だね」
「兵長が好きだかイェーガーくんが好きだか分かんないですけど、隊に戻らなくていいんですか?」
「私はメルちゃんひとす―――ごめんごめん。いや、昨日お酒貰ったら酔っ払っちゃってお邪魔したの」
「あはは、迷惑もいいとこですね」
「あはは、メルくん辛辣ぅー」

二人が談笑していると、外からリヴァイが帰ってきた。メルヴィンが挨拶すると不機嫌に顔を歪めた。

「遅ぇんだよ」
「すいません。でも完全復活です」

ニコニコと返すメルヴィンにリヴァイは苛立つ。座って、出されたコーヒーを啜った。

「そもそもお前があの書類の束を徹夜するからだろ」
「しなきゃここに来れないじゃないですか」
「エレンを一人で帰せば良かったじゃねぇか」
「夜中に一人で帰せませんし、僕が一緒に帰ってなかったらイェーガーくん蹴ってたでしょう?」
「無断外泊するからだろ。俺は許し――――」
「メルくんとこにエレン泊まったの!?」

二人のやり取りを聞いていたハンジが席を立って偶然隣に座っていたエレンを問い詰めた。あまりの勢いにエレンもたじろぐ。

「えと、はい」
「私、部屋すら入れてもらえないのに!」
「ハンジ分隊長、話逸れるんで静かにし――――」
「私も入れてよー!!んで、一緒に寝よ―――」

机を挟んでメルヴィンの肩をガクガク揺さぶっていたがはたと気付いて、ゆっくりとエレンへと振り向いた。

「一緒に寝たの……?」
「え、は、はい」
「なんで!?」
「あーもう、なんでハンジ分隊長が口出すんですか」
「私はメルくんのこと仲の良い女の子としてしか見てないからだよ!」
「なっ……ハンジ分隊長っ!!」

ハンジの言葉にメルヴィンは顔を紅くしてムッとする。ハンジは構わず、可愛いと頭を撫でる。振り払うと両手で髪をぐしゃぐしゃに撫で回した。

「………怒りますよ」
「いっそのこと髪下ろしちゃえばいいじゃん」
「お前ら、いい加減にしろよ。騒ぐなら外でやれ」

騒がしい二人がとうとうリヴァイの怒りに触れた。半ば巻き込まれた形になったメルヴィンは少し不貞腐れて返事をすると席を立った。ハンジはさして気にした風もなく、あーぁと溢してメルヴィンの背中を目で追うだけだった。
エレンはいつもにこやかにしている上官が怒ったのだろうかとメルヴィンが気にかかり、後を追った。

「メルヴィンさん!」

メルヴィンがいたのは洗面所の扉の前だった。名前を呼ばれて振り返る。

「僕、名前呼んで良いって言ったっけ?」
「え、あ、えぇと……」
「一昨日だけ許した気がするけど?」
「昨日呼んだときなんも言いませんでしたよ…?」
「……君、昨日僕の名前呼んだ?」

不思議そうに首を傾げるメルヴィンにエレンは溜め息を押し殺す。

「(……そうだ。この人、昨日は一日中寝惚けてたんだ)」

メルヴィンは扉を開けたまま洗面所の鏡の前でそそくさと髪を整えると扉の前に立っているエレンの横を通り過ぎる。エレンは思わず引き止めた。

「あ、あの――――」
「おい。早くしろ。わざわざメルが起きるまで待ってたんだからさっさと来い」
「はーい」

苛立ちを隠すことはなくリヴァイが起きてから騒がしいメルヴィンを諌めにきた。一方、メルヴィンはさして気にした風はなくリヴァイの隣に並んで居間へと消える。面食らったエレンは姿を慌てて追った。

「あのっ、メルヴィンさん。俺、『メルさん』って呼びたいです」

一瞬、時が止まったようにエレンは感じた。視線がエレンに集まる。動きを止めたメルヴィンの隣でリヴァイは呆れた表情を見せると、そのまま外へ歩いて行ってしまった。

「…え…ダメ、ですか……?」
「いいんじゃない?名前で呼んでる人たいてい『メル』だし。ねー?」

当人ではないにも関わらずハンジが許可を出す。そして固まっているメルヴィンに話し掛ける。

「むしろメルヴィンって言ってる方が少ないよー。だから呼んじゃいな」
「僕より先に言うの止めてもらえます?………名前で呼ぶのはいいけど、『メル』はだめ」
「いいじゃん。リヴァイ班で一人だけでしょ、許すの」
「いや、まぁ……」

何か言いたそうにエレンをチラリと見るが、ムッとした顔でハンジと向き合った。

「事情はどうだか知らないけど、昨日付き合い悪かった罰だよきっと」
「………なにそれ……」

ニヤニヤと笑いながら言うハンジにメルヴィンは不貞腐れた様子で外に出ていった。
今まで様子を唖然として見ていたエレンとリヴァイ班はハンジに急かされて慌てて後を追った。勿論、お礼を忘れずに。


「(あ、そういえば昨日のことは覚えてるのか?)」

昨夜、寝惚けていたメルヴィンに呟いた言葉を思い出して、エレンは人知れず顔を紅くするのだった。




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