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きみへの寵愛


どうしたの?テツヤ?なんて。そう私が聞くより先にテツヤは私から手を離し、何事もなかったかのように歩き出した。そんなテツヤに話題を掘り返すかのように疑問を投げかけられるわけもなくて。

「今日は一時間目から体育ですね」
「うん。男子はなんだっけ」
「今日からサッカーです」
「そっか。女子はバレーだよ」

ありきたりな会話を何度かすればあっという間に学校についてしまう。今、体育は2クラス合同で男女別の競技をしている。男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバレーだ。朝からジャージに着替えなくてはいけないのは面倒だけど、それはつまり即別行動になるというわけで。

「テツヤ部室で着替えるよね」
「はい」
「じゃあ私、教室行くから」

またあとで、とテツヤに背を向ける。別々になれて良かった、なんて。バレないようにそっと安堵した私を知ったらテツヤは私をどう思うだろうか。

「灯」

テツヤに名前を呼ばれてこんなにも不安な気持ちになるのは、きっと初めての事で。どうしてこんなにも動揺ばかりしてしまうのか、自分で自分が嫌になった。

「なぁに」
「今日のお昼は、一緒に食べましょう」
「え?」
「僕とふたりで。約束ですよ」

私の態度はおかしくなかっただろうか。いつも通りに優しく笑いかけてくれるテツヤはこんな私に気付いた?それともあえて気付かないフリをしてくれた?

「うん。分かった」
「では、また」

テツヤの優しさに甘えるのはもう何度目の事だろう。

「・・・ふたりで、か」

ねぇ赤司君。私は今まで私なりにテツヤを理解しているつもりだったよ。誰よりもテツヤの近くにいた自信があったから。―――でも、違ったのかな。赤司君が言ったいつかのあの言葉。

"君はもう少し、テツヤの事を分かってあげるべきだ"

私は今も、その言葉の意味を理解出来ないよ。