頭上から照りつける太陽がだんだんと力を増してきている。
春から夏に変わるこの季節は、とても好きだ。

息を切らしながら、教会への坂道を登る。
緑色の深さも強くなっている。本格的に夏に入るのだと思うと、何はなくてもわくわくした。

「牧野さん!」
「あ、名前さん」

教会から出てくる村人の姿を発見した。
その向こうに、彼らを笑顔で見送る牧野さんが静かに立っている。
思わず、駆け出した。

顔見知りの村の人に軽く挨拶をして、牧野さんのもとへ。
彼は変わらずそこで私を待っていた。
けれどどこかほかの人へ向ける慈愛の微笑みとはまた違う気がすると思うのは、私の自己満足だろうか?

「こんにちは!」
「ふふ、こんにちは」

あついですね、なんてこの時期当たり前の文句を言ってくれる牧野さん。
わたしも、そうですねと決められたように返した。
そのあいだに、ここに来たうまい理由を考える。

本当はただ、ちょっと家の周りを散歩しようと思っていただけだった。
気づいたら足が自然と向かっていた、ということが実際にあるなんて今まで知らなかった。

ふと、今日牧野さんは何してるかなと思ったのが最初のような気がする。

「良いお天気だったので、教会のお庭は気持ちよさそうだなって思って」
「ああ、本当ですね。今日は私もさっきから眠くて、あ、これは内緒ですよ?」

恥ずかしそうに笑う彼を、とても可愛らしいと思った。
ただの知り合いにはきっと、こんな話をしない人だとわかっているから、余計に。
牧野さんだって、完璧な人間じゃないはずなんだから。

じゃあ、少しお庭を歩いてみますか?と彼に言われ、即座に大きく首を縦にふった。
忙しくないのかなと思ったけれど、それを言ってあげるほど私はお人好しじゃない。
私だって牧野さんを少しは独占していいはずだ。
こんなときだけ、私は私が私であることを利用する。
ただのずるい人間。

「あ、このお花、咲いたんですね」
「そうですね、ついこの前。名前さんが以前来た時は、確かまだ蕾でしたね」
「なんて名前でしたっけ」

そこで彼は、少し考える仕草をする。
ちょっと困らせてしまったかなと思ったけれど、その仕草も好きだったので黙っている。
ごめんね牧野さん。

「今度また八尾さんに聞いておきます」

結局わからなかったみたいで、彼は私にすいませんと謝ってきた。
私が知りたいのは、花の名前なんかではないのだけれど。

まあでも、また「今度」があるということは、私にとって最高の言葉だった。
今は牧野さんの言葉に甘えることにしよう、そうしよう。
思わず頬が緩む。どうしよう、嬉しい。

ふと、教会の庭を緩やかに風がそよいだ。
懐かしいと思えるほどの芝生の匂い。

「わーちくちくするー」
「あ、名前さん、だめです服が汚れちゃいます」
「もう、牧野さんは真面目なんだから」

汚れるくらい、どうってことないのに。
というか、こんなに綺麗なので汚れようがない。逆に汚してしまいそう。
私は青々と繁る芝生の上に腰を下ろした。

牧野さんはそんな私を見て、しばらくあたふたしていたけれど、
しばらくすると諦めたように自分も隣に座ってきた。
うわ、ちかいちかい!肩当たってる肩!

「・・・牧野さんこそ、大事な服が汚れます」
「いいんです。もう、名前さんは真面目なんですから」

なんてからかわれて、思わず笑った。
こんな会話、ほかの人にもしてるのかななんて心配になる。
けれどいまの牧野さんは、私のものだ。
誰にも見せてあげない。

「八尾さんに怒られちゃいますよ?」
「そうかもしれません」

困りました、と笑う牧野さん。
言葉の割に、困ったように見えません。

「では名前さんも。一緒に怒られてくださいますか?」
「もちろん、喜んで」

即座にそう言うと、心底嬉しそうな彼の笑顔。
きっとこれが、幸せというものなのだろうと思った。






20140518

Figures of Happiness

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