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打率落ちっぱなしの守備乱れっぱなし。いっくら練習に打ち込もうと まるで調子を取り戻せない自分の野球に、不安と焦りばかりが積もっていく。スランプ、なんてらしくねーのに。やっぱもっと集中して、ガンガン練習してかねぇと。
そう自分に言い聞かせては、気が付けばまた同じことを考えての繰り返し。ダメだな…。ごちゃごちゃ考えたって仕方ねーってのに、じっとしてっと余計なことばっか考えちまう。早く体育なんねーかな…。そうすりゃ多少気が紛れんだけど。
他のことを考えようと、なんとなく目を向けた右斜め前の席では、黒川達が何やら楽しそうに会話を弾ませていた。

「あっ!それ、最近発売したばっかりのお菓子だよね。CMでよくやってる」
「そだよー。美味しそうだったから昨日の夜買ってきたんだ」
「あんた、いつもチョコレート菓子食べてない?」
「好きなんだよ、チョコレート。よかったらお二人もどーぞ」
「わっ、いいの?ありがとう」

なんともない普通の会話だ。今の自分には特別興味を引くような内容でもなく、視線を窓の方へと戻した。

「山本にもあげるよ」
「え、あ」

名前を呼ばれて反射的に振り返れる。「ほい」っと投げられたそれをぱしりとつかみ取れば、そこには透明の小さな袋に包まれた まあるいチョコレートが乗っかっていた。

「疲れた時には甘いもの。チョコにはリラックス効果があるらしいよ」

その何気ない言葉と表情が、まるで自分の悩みを見透かされているかのように感じて、なんだかいやに心臓がはねた。
「サンキュー」そういって笑って見せたけど、あいつには俺のこと、どうみえていたんだろう。


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