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校庭を散策し、適当な獲物を探し回る。裏庭でタバコを吸っていた不良どもを咬み殺したところで、何の面白みも感じない。どいつも退屈しのぎにすらならない草食動物ばかりだ。あまりのつまらなさに欠伸がこぼれる。……暇だな。そろそろ応接室にでも戻ろうか。

そんなことを考えていると、後方からドスンという鈍い音が聞こえた。振り向けば自分の数十メートル先にみえる裏門の前に、黒い何かが落ちている。それが何なのかを認識すると、次に一人の女生徒が門を飛び越えてきたところを目にした。どうやらさっきの音はスクールバッグを投げ入れた際の音らしい。

「(…というか、堂々と遅刻してくるとはいい度胸だね―)」

彼女が地面に足をつけるよりも先、向こうも同じタイミングでこちらに気づいたようで、ぼんやりと見える女の顔が 僕の方にしっかりと向いた。

走りだしたのはほぼ同時。自分と同じ色をした揺れ動く髪を逃がさぬように追いかける。女にして速いけど、僕と比べたらたいしたことはない。距離は徐々に縮まっていき、最初の2/3程までになったその時、前を走る獲物が勢いよく校舎の角を曲がった。
無駄な抵抗を。逃げ切れるとでも思っているのだろうか。姿は見えなくなったけど、振り切れるような距離じゃない。同じ角を曲がったのはそれから5秒もたたない頃。追いつくと、そこには全開になった窓と、その近くに脱ぎ捨てられた靴がころがっていた。…諦めの悪い奴。窓に手をかけ、靴のまま、迷わず自分も校舎の中へと入った。

あたりに人の気配はなく、廊下はしんと静まり返っている。女の足音は…、聞こえない。近くで身を潜めているのだろう。手始めに半開きになっていた備品室へと入るも そこに女の姿はなく、すぐに部屋を出る。すると、後ろ手で閉めようとしたドアがふいに、何かに引っ掛かり動かなくなった。よく見れば上部分のドア枠が歪んでうまく閉まらなくなっている。あとで直すよう整備の者に伝えておこう。ひとりそう納得し、再び女の姿を探しまわるも周囲にそれらしい影は見当たらない。……つまらないな。

鬼事に飽きてきた頃、そこで何となく、先ほど入ってきた窓の外へと目を向けた。

「…!」

あったはずの女の靴が消えている。

瞬時に理解する。あの靴も全開だった窓も、おそらくはどちらもフェイクだったのだ。僕を校舎の中へと導くための。そうして僕がこの場所に留まっている隙に、中ではなく屋外に隠れていた女は、わざと脱ぎ捨てた自分の靴を回収して再び逃げた。

「……やられた」

廊下に僕の声だけが響く。

相手の顔はよくみていない。
わかっているのは、そう長くない黒髪の女であるということ。


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