00:始まりも終わりも変わらない




ピピピピッ、と枕元で規則正しく音を鳴らしつづけるそれに、もそもそと手を伸ばす。
うるさい。まだ寝足りない。でも起きなきゃ。睡魔と葛藤する頭を何とか奮い立たせ、しばらく頭上をさ迷った手がようやく目的のものをとらえた。時刻は7時40分。
……やってしまった。完全に寝坊である。

ドアの向こうから、母が何度も自分の名を呼ぶ声が聞こえる。あぁ、起こしに来てくれるなら もう少し早く声をかけてくれたっていいじゃないか。部屋を飛び出しそんな不満をこぼしたら、もう4回は起こしに来たといわれた。まじか。

このところ妙な夢のせいでどうも寝覚めが悪い。夢の内容など ほとんど覚えていないというのに、これを見た朝はいつも頭にモヤがかかったようで すっきりしない。それに今朝は一段とひどい。これせいで今月だけでも5度目の寝坊だ。うち2度は学校へ遅刻している。次遅刻したときは反省文を書くようにと、ついこないだ注意されたばかりだというのに。今から急いで準備しても始業時間に間にあわ、いや、頑張ればイケなくもない…?

――――――
―――



やっぱり、朝っぱらからダッシュするもんじゃないな…。体は怠いし、おにぎりを詰め込んだ胃が変に刺激されて気分が悪くなってきた。それに、走るたびに背中のスクールバッグがバシバシと腰に当たる。ノートとか飲み物とか、固いものが入っているから地味に痛い。きっと今頃 バッグに入れた母手作り弁当は悲惨なことになっているに違いない。
けれど もしまた遅刻して、あの・・風紀委員長さまに捕まった日には、こんな痛みではすまないのだろう。想像するだけでも寒気がする。重くなってきた体に喝をいれ、再びペースをあげる。あの人と鬼ごっこなど2度とごめんだ。


始業時間3分前。なんとかギリギリで校舎に到着。これなら走った甲斐があるというものだ。少し乱れた呼吸を整えながら、シューズをうわばきへと履き替える。案の定というべきか、こんな時間だから玄関に学生の姿はほとんどない。1年の下駄箱があるここにも、わたしを含めてふたりだけ。

見慣れない女の子だ。こんな子、うちの学校にいただろうか?クルミ色の柔らかそうな髪毛に、すごく整った容姿をしている。それこそ、わが校のアイドル、笹川京子に引けを取らないくらい可愛い。一度見かければ印象に残りそうなものだけど、まるで見覚えがない。
彼女は靴も履き替え終えているというのに その場から動こうとせず、辺りをきょろきょろと見まわして何かを探しているようだった。

そろそろ教室へ行かないと間に合わないですよ、なんて気持ちも込めて、もう1度 彼女のほうをちらりと見る。……うん。やっぱり知らない子だ。
刻々と迫る時間を気にしながら、きゅっ、と体の向きを変えた。



「あのっ、職員室ってどこにありますか?」

たっ、たっ、たっ、たっ、という足音のあと、自分の後ろから、そんな可愛らしい声が投げかけられる。ゆっくりと振り返れば、日本人離れしたモスグリーンの大きな瞳が じっとこちらに向けられていた。

緊張した面持ちの美少女を前に、わたしが取れる行動はたったひとつ。
これは…HRに間に合わないかもしれない。


目次 [next]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -