06:これはきっと、意味のない偽善行為




うちの学校には今、わけあって保健室の先生がいない。夏休み前まではいたのだが、たしか産休だか育児休暇だかで席を空けている。そのため代理の教員が来るまでの少しの間、ケガ人や病人が出た際は よほどでない限り、そのクラスの保健委員が対応することになっており、そして我が1−Aの保健委員はこの私…。つまるところ何かあった場合は私が対処することになっているのだが―…。




「はい、ちょっと染みるよ」
「っ〜〜〜〜!!」
「山田、湿布の予備ってどこだ?見あたらねーんだけど」
「あー…、そこのラックの右下。ちょっと待ってて。その位置じゃ自分で張りづらいだろうから、私やるよ」
「お、サンキュ!」
「けっ、こんなの唾つけときゃ 治んだろ」
「うちに唾液は置いてないなぁ」
「そういう意味じゃねーよ!!」
「うわ痛そう。沢田これ顎割れてない?大丈夫?」
「無視すんな!!」

キャンキャンとうるさいお犬様は右から左と受け流し、沢田の頬に薄いガーゼを張る。直に湿布はまだ染みそうだし、これは氷で冷やした方が良いか。 氷嚢ひょうのうってどこにしまってあるんだっけ…。あぁ、あったあった。
作った氷袋を沢田に手渡し患部をしばらく冷やすようにと伝えれば、彼はちょっぴり気まずそうに はにかみながらお礼を言った。えらい。そこの鼻血垂らしてた不良とは大違いだ。

さかのぼること数分前。いつものように昼食を食べ終え教室へ戻ると、慌てた様子で教室へ入ってきた小鳥遊さんに声をかけられた。聞けば ケガの手当てをしたいのだが、保健委員が同伴しないと救護用品を使わせてもらえないので一緒に保健室まで来てほしい、とのことだった。若干嫌な予感を覚えつつ、断れる理由もないな と彼女についていくと、案の定というべきか、そこには腕や頬に立派なケガを負った例の3人が。なぜ私は保健委員なんぞになってしまったのだろうと この時とことん後悔した。
その小鳥遊さんはというと つい先ほど、リボ山先生、もとい教師姿にふんしたリボーンくんに連れられて、どこかへと行ってしまった。呼んどいてそんな…とは思ったが、この場を離れるのは彼女も本意ではなかったようで。その時みせた何とも言えない表情と、自身の胸元を掴むような仕草が強く頭に残っている。


「はい、おしまい」
「サンキュー!助かったぜ」
「どういたいまして」

山本の処置も終え、小さく息を吐く。さて、残る問題は…。

「じゃあ最後、獄寺くん」
「………いらねぇ」

つん、といった様子でそっぽを向く彼に、今度は隠しもせず溜息を吐く。
そんな頬を赤く腫らしといて何言ってんだか。つんけんするのもいい加減にしてほしい。文句を言い切ったとはいえ、こうも毎回そんな態度でいられては、私だっていい気はしないのだ。
じっと彼のほうを見つめるも、その態度が変わることはなく、近くに座っていた沢田が険悪な雰囲気を察してあわあわとしている。

「この前のこと、まだ怒ってんの?」
「……。」
「あれに関しては私、間違ったこと言ったなんて思ってないよ」
「……うるせぇ」

私たちのやり取りに、沢田と山本が首をかしげた。何も言い返さないということは彼自身、何か思うところがあったのだろうか?…これは少し意外だ。私の言葉など、耳を貸さないと思っていたから。

「………沢田も心配してる」

どうにかして傷をみようと、彼の強みでも弱みでもある沢田の名前を出す。正直ほっといても良いのだが…、考えてみれば、奴に貸しを作れるまたとないチャンスだ。ここまで来たのなら、手当のひとつやふたつ やっておいて損はないだろう。

「そうだよ獄寺くん、手当てしてもらったほうが良いって」
「……、10代目がそう、おっしゃるのなら」

ボスである沢田綱吉からの言葉はやはり絶大なようで、「さっさとしろ」と渋々椅子に座った彼に、「ハイハイ」と返事をする。最初からこう言えば良かったか。
キズの様子をみていけば、腕に擦り傷が数か所とでかい打撲が頬にひとつ。腕のほうは大丈夫そうだけど、頬はよく冷やしたほうが良さそうだ。とりあえず氷で冷やしてもらいながら、消毒が必要な擦り傷にポンポンっとコットンを当てていく。その作業を、彼はじっと静かに見ていた。

「……。」
「……。」

これまでケンカばかり吹っ掛けられていた分、こうも静かな彼は珍しくて なんだか変な感じがする。怒鳴られることがほとんどってどうなんだ。なんでこんな不良がモテるんだか…。まぁ、顔だけはいいからなぁこの人。悶々と考え事をしながら、手頃な大きさの湿布を袋から取り出し、彼の頬へと合わせる。

「君、黙ってればカッコいいのにね」
「はあ!??!?」

あ、ズレた。

「ちょっとぉ…、動かないでくれる?」
「おおおお前が変なこと言うからだろーが!!」
「? なにが? ほら、もっかい貼り直すからじっと……ってあれ?こっちの頬も赤くなってた??」
「うるせぇええ!!」

結局私は怒鳴られて、ぐにゃりと曲がった湿布は彼が自分で貼り直していた。


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