先に起きた方が負けだけど



眠る意識の中、自分の咳き込む声で目が覚める。

あー糞。
加湿器は24時間フル稼働してんだけど、寒いからっつってエアコンつけて寝たらコレだよ。

最悪。


喉奥の違和感に咳をしながら、肘を付いて身体を起こす。
携帯を見ると、もうすぐ起床時間。


あ゛ー…今日声出す事ねーかもだけど、ちゃんと治んのかよ、これ。
医者に処方して貰ったうがい薬、まだあったっけ。


真っ暗にした室内。

自分の携帯画面が自分の顔を照らすのと。
カーテンから少しだけ光が漏れてて目が慣れると暗くても室内はちゃんと見える。


携帯のアラームを解除して、ソレを枕元に置いて、もう起きる時間だし寝直す事はせずに隣に寝てる敏弥さんの観察。


枕に顔を半分埋めて俯せの状態で寝入る敏弥さん。

昨日こいつタチだったから、ヤッたまま素っ裸で寝たんだよなー。
ムカつくぐらい長くて綺麗な足が片方布団からはみ出ててる状態。

寒くねーのかね。


そう思って、一応肩まで布団を引っ張って掛けてやった。


この人、昔女形してたからか元々なのか体毛すっげー薄い。
そこらの女より足とか綺麗。


見られる仕事だから、ある程度はわかるけど。
恋人の欲目抜きにも、敏弥さんは綺麗。

…で、可愛い。
寝顔とかね。


敏弥さんのパーマのかかった髪をゆっくりと撫でて、幼くなった寝顔をじっと見つめる。

顔ちーせーなー。

最近肌荒れ酷いよな敏弥さん。

俺も人の事言えねーけど。


頬をゆっくり撫でて、ピアスが付いてる耳を撫でた。
敏弥さん1回寝るとなかなか起きねーんだよなー。


つーか寝起き悪いし。


そのままずっと敏弥さんの寝顔を見てて、キスしようかなって思って敏弥さんの顔に顔を近付ける。


「……ッ!?」


その瞬間、敏弥さんの設定してたアラーム音が鳴り響いて、ビクッと身体を強張らせて固まる。


「ん゛ー…」
「ビ、ビッたー…」


敏弥さんのアラームすっげぇ煩い。
咳も引っ込むっつの。

これぐらいまでしなきゃ起きねーのはわかってっけど。


キスしようとした体勢のまま固まってると、俯せのままの敏弥さんは手探りで自分の携帯を探した。

顔を上げて、タッチパネルの画面を操作してロックを解除してアラームを消す。

携帯画面の光で浮かび上がる敏弥さんの顔は、目が細くてすっげー眠そうで不機嫌な感じ。

完全にタイミングを逃した俺は、じっとしたままその様子を見るだけ。
敏弥さんはアラームを止めると、携帯を持った形でまた枕に顔を埋めた。
二度寝する気満々。


「……いやいやいや、起きろよ、敏弥さん」
「…なぁーにーもー…うっせぇ…」
「朝。仕事。しかも今日の朝ご飯は敏弥さんの当番」
「…うー…ん、わかっ、た…」
「………」
「………」
「いや、だから寝んなよ」


敏弥さんの身体を揺さぶると、目を瞑ったままふにゃふにゃ喋って寝返りを打った。
こっちに顔を向けたけど、まだ起きねー。


放っておいたら寝そうだったから、敏弥さんの頬を軽くぺしぺし叩く。
鬱陶しそうに手を払い退けられた。


糞。
さっきキスしたい程可愛かったけど、今は全く可愛くねぇ。


起きろバカ。
朝飯作れ。


「とーしーやーさーんー」
「……ルキ君煩い…」
「お前が起きる時間に目覚まし掛けてんだろ。起きろ」
「…声掠れてんね、大丈夫?」
「は?…あー…エアコンでやられ、」


寝起きの開いてるか開いてねーかわかんねー目で、俺を見て来て。
普通に喋り掛けて来たから俺も普通に言葉を返したら、敏弥さんの手が俺の顔に伸びて来て。
首を引き寄せられる。

そのまま、唇を合わせるだけのキスをされた。


「…ルキ君の喉が治りますようにー…」
「……」


…うん、やっぱこいつ可愛いわ。

ふにゃっと笑った敏弥さんは、俺の髪から首を撫でる様にして回した腕をシーツに落とした。


「……そう言う訳で、おやすみー…」
「………」


前言撤回。


「いやいやいや」
「なぁにもう癒してあげただろ俺の役目は終わりました」
「お前の役目は朝飯作る事だろ」
「やだ眠いルキ君お願い」
「そう言って俺が朝作る回数多いからね。敏弥さんたまにはやれよ」
「やーだー。愛してるからー」
「そんな安い愛はいらねー」
「どんな愛だったらいいのー」
「敏弥さんが眠い中、俺の為に朝飯を作る愛」
「……却下ー」
「てめ…ッ」


そうやってなんだかんだ。
敏弥さんが起きるまでベッドん中で攻防戦と言う名のイチャつきを繰り返します。


寝起きの敏弥さんはムカつくけど可愛いからね。



END


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