ライブ後の楽屋



「お疲れー」
「お疲れ様」


ライブが終わってそれぞれ楽屋に捌けて来て。
疲労困憊、と言う風にソファや椅子に座ってグッタリとしながら身体を預ける。

汗の量半端ねぇー。

タオルで汗を拭きながら身体を起こすと、京君が目の前のソファに寝転んで、顔にタオルを置いて息を整えてた。
汗まみれの胸元が大きく上下する。


今日もお疲れ様。

全力投球で挑んで、ボロボロになってるけど、言う所が好き。
メンバーとしてね。


着替えなきゃなーって思ってると、入り口の方からスタッフに案内されたルキ君が入って来たのを見つける。


ルキ君は近くにいた薫君や堕威君、心夜と次々に挨拶をしていってちょっと談笑。
その様子を何となく見る。

やっぱ恋人がメンバーと仲良くなるのって嬉しいじゃん。

違う意味でどっちも大事なんだし。

少しだけセットされた髪に、格好良く着こなした服装、眼鏡なルキ君が嬉しそうに喋ってた。


まぁよくライブに来るんだけどルキ君は一応後輩にあたる訳だから、ライブ後に楽屋に挨拶しに来るのは必須で。
何度か会って慣れたみたいだし、今ではルキ君も普通に話せるようになった。

1人を除いては。


何度か会釈をして、会話が終わるとルキ君は俺の姿を見つけてこっちへやって来る。


「敏弥さんお疲れ。ライブかなり良かった」
「うん、お疲れ」


ルキ君は座る俺の元に来て笑い掛けて来て。
ルキ君の手を取って、ルキ君がライブの感想言ってんのを聞く。


ルキ君は、俺の向かいに寝転ぶ京君にも挨拶したいんだろうなぁってわかる程そわそわしてて。
まぁ今の京君は『近寄るな』オーラ出てるから、話し掛けんの無理だろうね。


「ってか、ルキ君座りなよ」
「あ、うん」


立ったままだったルキ君の手を引いて、自分の隣に座らせてルキ君の肩に腕を回す。
周りにはバタバタと忙しなく動いてるスタッフもいるし遠慮してるんだろうけど。

まぁ皆、気付いてても気付いてないフリするよ。
俺らの関係を。


「ってか家では全くスカート穿いてねーのに、ライブで穿いてんのって何か違和感」
「そう?格好良いでしょ」
「まぁ、似合ってるけど、それが嫌」
「何でだよ」
「だから違和感」
「そっかなー。あ、ルキ君今日打ち上げ来るよね?俺らの盤車で行く?」
「あー…いいよ。自分で行くから」
「えー、遠慮しなくていいのに」
「さすがにそれはな」
「そっか、じゃ、後で打ち上げ会場で会おうね」
「おぅ」


そう言って、ルキ君のこめかみに唇を押し当てる。
ルキ君の香水が鼻腔を擽った。


「おい敏弥。イチャついとらんと早よ着替えや。出なアカンのやから」
「はーい。じゃルキ君ちょっと待ってて着替えるから」
「うん」
「ホラ、京君も起きぃや。着替えなアカンで」
「……っさい…」


きっちり着替えた薫君に言われて、立ち上がる。

目の前のソファに寝転ぶ京君も薫君に揺り起こされて。
顔に掛けたタオルを取りながら不機嫌そうな顔をして起き上がる。


その瞬間、ルキ君が面白い程素早く立ち上がった。


「ッ、京さん、今日はお疲れ様でした…!」
「あ゛?」


直立不動で、京君に挨拶するルキ君。
離れた所で眺めてると面白い。


京君は不機嫌そうな顔のまま、ルキ君の事を下から上まで見て、何も言わずソファから降りて着替えに行った。


遠目から見てもルキ君がヘコんでるのがわかる。


いつも無視されてんのに、よく心折れないねー。


まぁそんな所も好きだけど。
ルキ君、どんだけ京君の事好きなんだよ。

恋愛感情と別だって事は散々言われて一応は納得したけど、やっぱ、ねぇ。


京君の事を目で追うルキ君に苦笑い。


俺の方に着替えた京君が来て、自分の私物を漁り始めた。
そして俺を見上げて来る。


「敏弥」
「なーに」
「何で連れて来るん」
「来たいって言うから。俺も観て欲しいし」
「ウザい」
「知らないよ。どうせ話してないんだからいいでしょ」
「……」


ルキ君に聞こえないトーンで話して、自分の支度が終わってまたルキ君の元へ。


「ルキ君また京君にフラれてたねー」
「言うなよ…ヘコんでんだから」
「もう、京君にフラれたぐらいでヘコみ過ぎ!ムカつくー」
「ちょ…っ」


本気でヘコんでそうなルキ君にちょっとムカついて、ルキ君の頬を両手で挟んでうにうにと動かす。

はは、変な顔ー。


「ッ、やめろよ馬鹿!」
「はいはい、ルキ君は俺のだからね。他の男にうつつ抜かしてたら怒るよ」


ルキ君は怒りながら俺の両手を引き剥がして眼鏡を掛け直した。


「だから京さんはそんなんじゃねーって、」
「でもダメ。ルキ君は俺だけ見てればいいの。わかった?」
「う、」
「わかった?」
「……うーん」
「この野郎」


ルキ君の両頬を掴んで顔を突き合わせて言い聞かせる様に言って。
ルキ君の曖昧な返事にゴツッと額を強めに合わせた。

痛みに顔を歪めるルキ君。

もーこの子は!

確かに俺も仕事の面では京君努力してるし尊敬もしてるけど。
ルキ君の京虜具合は度を越えてるよ。

薫君といい勝負だよ!


間近で見る、ルキ君の顔。
グリグリ額を合わせてたのを離すと、ルキ君は痛かったのか額を擦った。


視線を感じて振り返ると、京君がふいっと視線を外して。

ぶつぶつ文句を言うルキ君にまた向き直る。


嫉妬半分、同情半分。
俺が京君と関係を持つ理由。


「はいはい、文句言わないのー。もう出なきゃいけないから、打ち上げ会場で会おうね」
「…わかった」


ぽんぽん、とルキ君の頭を撫でるとちょっと拗ねた顔で返事をするルキ君。

可愛いったらないね。


一生交わらなくていいよ。
京君となんて。

ルキ君は俺のだもん。


ルキ君が思ってる以上に俺はルキ君を愛してて、腹黒いんだよ。



END


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