犬も食わない
「ちょ、え、マジで?ちょっとルキ君!」
「なーに敏弥さん煩い。夜中なんだから静かにしろよ」
敏弥さんが風呂から上がってキッチンへ行って冷蔵庫を開ける。
夏だから、風呂上がりにビール飲むのがいいんだって。
もう買い置きなかったから、今日は俺が6本入りの買って来てやったんだけど重かった。
マジで重かった。
そんな中、敏弥さんがキッチンから叫ぶ。
うるせーよ。
一応防音な部屋だけど自重しろよ。
そんな事を思ってると、敏弥さんが缶を持ちながら俺ん所に来た。
「ちょっとコレ何!」
「何って…敏弥さんが飲むビール」
「これビールじゃねーよ!発泡酒だっつの!もー何でこっち買ってくんの!」
「は?どっちも一緒だろ」
「違ぇえ!全然違うよ!値段も違うかっただろ!?」
「知らね。もーいいだろソレ飲めよ」
「これだから飲まねー奴は…!これ不味いからヤだ。あーもールキ君が買って来てくれるっつーから俺買って来なかったのに。ルキ君に任せるんじゃなかった」
そう言う敏弥さんの言葉に、カチンと来て立ち上がる。
でも身長差が激しいから、不機嫌そうな敏弥さんに見下ろされる。
ムカつく。
「何だよそれ!人がせっかく買って来てやったのに礼ぐらい言えっつーのこの酔っ払い!」
「まだ飲んでねーよ!ビールと発泡酒の区別もついてねーお使いして来て礼も糞もねーっつの」
「あぁ!?じゃ、金輪際買って来ねーから!もう飲むな!」
敏弥さんと言い合いして、敏弥さんの手に持つ缶を引ったくる。
腹立つ。
違いってなんだよアルコールのトコにあるんだからどれも一緒だろ。
ムカついて、その缶のプルトップを開けて。
発泡酒と言われたソレを一気に煽った。
「ちょ、バカ!何飲んでんだよ!」
「…ッ、まっず…ッ」
一気に半分以上飲んで、口を離して口許を拭う。
独特の味が口内に広がって顔を歪めた。
不味い。
あんまアルコール得意じゃねーし、尚更。
飲んだら飲んだで、顔と身体が熱くなってくんのが自分でわかる。
空きっ腹に飲んだから、回るの早いかも。
糞不味いし、最悪だなもう。
まだ残ってる缶に口を付けようとすると、その缶を敏弥さんに奪われた。
「っにすんだよ!」
「酒強くねー癖に飲むなよ!」
「うるせーよ敏弥さん飲まねーから俺が飲んでやってんだろ!返せ!」
「嫌」
「チッ」
そう言うと、敏弥さんは俺が半分以上飲んだ缶に口をつけ、一気に飲み干した。
空になった缶を、敏弥さんはベコッと握り潰して。
「ッあ゛ー…やっぱ不味い。最悪」
「だから飲むなっつってんじゃん。馬鹿じゃねーの」
「ルキ君も飲めねー癖に飲むなよ。介抱しねーぞ」
「誰がしてくれっつったよ」
「発泡酒で顔赤くなってる奴が何言ってんの」
「ウゼェ」
敏弥さんから視線を外して舌打ち。
イライラする。
マジ何なんだよ。
せっかく買って来たのに。
もう知らね。
「…ちょっと、何処行くの」
「もう寝る。お前今日ソファで寝ろよ」
「は!?何で!」
「ムカつくから」
「ぜってーヤだ。ベッドで寝るから」
「はぁ?俺にソファで寝ろっつーのかよ」
「何でだよ一緒に寝ればいいじゃん」
「は、」
「喧嘩しても何しても一緒には寝るからね。ルキ君と仲直り出来ないのも、一緒にいないのもヤだ」
「お前…どんだけ我儘なんだよ」
「そんなのお互い様だろ」
「あー…もう、アホらし」
寝室に向かおうとした足を止めて、さっきまで座ってたソファに座って溜め息。
敏弥さんが、俺の方に身体を向けて隣に座って来た。
「ね、覚えて。俺の嗜好品。知らないのもヤだ」
「…知らねーよ、もう」
「ルキ君が好きな物も嫌いな物も、覚えるから。ね、そしたら喧嘩しなくなるかもよ」
「………」
一緒に暮らし始めて、始める前からも喧嘩なんて日常茶飯事で。
お互いがガキだから、売り言葉に買い言葉な言い合いばっかして。
でも、ガキみたいな敏弥さんの言葉で今まで上手くいって来たのも事実。
それはお互いを尊重して歩み寄ろうとしてる事。
「…仕方ねーな。敏弥さん我儘だから」
「言っとくけど、ルキ君も大概だからね」
「あれ飲めよ。せっかく買ったんだし」
「うーん…」
「オイ」
「あはは。頑張る」
そう言って笑い合って、どちらともなくキスをした。
アルコール臭くて不快なキス。
でも敏弥さんとの好きなキス。
END
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