入れ間違い/京流




るきと似た様な時間に家を出て、仕事場に着く。

まだ全員集まっとらんくて、適当にメンバーやスタッフに挨拶しながらスタジオの端に設置されとるソファに腰を下ろす。


眠い。


僕より先に起きたるきに叩き起こされたし。


あいつホンマ、年々起こし方ムカつく感じになって来とるわ。

オカンか。


ありえん。


そんな事を思いながら、ハットとサングラスを外して目の前のテーブルに置く。
ついでに携帯も。


その隣にスタッフが用意しとる菓子が入った箱が目についた。


そこには、るきが先月新商品ですよーって言うて買って来とったモンがあったから、ちょっと笑った。


…いや、キモいなそれは。


自分の考えを瞬時に否定して目の前の菓子に手を伸ばす。


今日は全員で打ち合わせしながら音合わせするんやったな。


一応、候補の詞を断片的に書いて来たし。

僕こんな早よ来んでもえぇんちゃう。


糞るきが早よ起こすからや。


まだ来てへんメンバーもおるし。


スタが持って来てくれた紙コップに入っとるコーヒーに口をつける。


したら、テーブルの上に置いとった携帯が着信を告げる様に震えた。


着信はるき。


何やアイツ。


るきも今日仕事の筈やん。
何か用なんか。


周りに視線をやって、電話の通話ボタンを押す。


「何や」
『あ、京さん、すみません仕事中に』
「ホンマにな。どしたん?何か用なん」
『すみません、俺、京さんのと自分の間違えてメモリ持って来ちゃったらしくて…』
「はぁ?」
『朝バタバタしてたんで…俺のそっちに入ってません?』
「んー…」


携帯片手に自分のカバンの中を探す。


あ、あったあった。


確かに僕んとはちゃうかも。


ちゃんと確認せずに入れてもうたか。


「これか」
『あ、ありました?俺今日必要だし、京さんの持って来ちゃったし、京さんのスタジオに持って行きますね』
「え、お前が?」
『え?俺が』
「いや来んな」
『…と言いたい所なんですが、俺も残念な事に仕事があるんでマネージャーが届けてくれるみたいです』
「……」
『京さんの事務所行きたいんですけどね』
「いや来んでえぇし。何しに来んねん」
『京さんの仕事場見たい』
「大概お前んトコと一緒やろ」


絶対来さしたらんし。


時間が経つに従って、メンバーももう集まって来よるし。


るきのマネが僕のメモリ届けるまで僕暇やんな。

と言うか受け付けにその事言うとかなアカンかも。


そんな事を思いながら、るきのメモリを見る。


自分のノートパソコンを出して、るきのメモリを繋ぐ。


起動されて、呼び出したファイルにはるきが書き溜めた曲や歌詞、デザインが入っとった。


「うわ、何かいっぱいあんなぁ」
『え?何がですか?』
「お前のメモリ」
『うわわ、見ないで下さいよ!修正するかもしれないし恥ずかしいじゃないですか!』
「はは、るきが恥ずかしいんは今に始まった事ちゃうって」
『ひど。ってか俺のマネに渡して下さいよ!俺も必要なんすから!』
「はいはい」


るきが書いた歌詞を見ると、あんまり聞いたりはせんけど僕とは違う感性やし。
こう言うのもアリなんやなって思う。

僕にはありえん事やけど。


いつもパソコン前で何かしよったけど、こう言う事しとんやなぁって。


『もうーなら京さんのもガッツリ見ておけばよかった』
「うわ、キショ」
『あは。でも京さんて完成前の見られるの嫌かなって思って我慢しました』
「おー、駄犬でも『待て』出来るんやん。偉い偉い」
『もっと誉めて下さい』
「はッ、誉めてへんわ」


ファイルを閉じて、パソコンからメモリを抜く。

アホなるきの言葉に鼻で笑って。


『あ、もう切らなきゃ。じゃ京さんすみませんが俺の渡しておいて下さい』
「はいはい、わかった」
『じゃ仕事頑張って下さいね』
「ん」
『じゃ、失礼します』


そう言うて電話を切る。


残ったんはるきのメモリ。


アイツの仕事内容はよう知らんかったけど、僕と同じ業界におるんやから似たような事はしよるんやろけど。

目の当たりにしたら何や不思議な感じ。


ま、あんま興味もないしな、るきの仕事。


立ち上がって、近くにおったスタッフに事情説明してるきのメモリを渡した。


やって僕は、何もかも脱ぎ捨てた、素のままで僕について来るるきのがえぇし。


そっちの方が、僕は好き。




20101214



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