11月22日いい夫婦の日/京流




スタジオに缶詰になっとる状態で。
新曲作りな向けて、メンバーと話し合いながらも作業を進める。

結構張り積めた空気になるし。

なかなか納得いくモンが出来ひんかったりするから、場の空気がピリピリして来たり。

まぁ、それは慣れとるからえぇんやけど。


休憩中。

0時が過ぎそうな時間。

暫く休憩の声がかかったから、自販機で缶コーヒー買って喫煙所に入る。


人は疎ら。


今日も午前様やなぁー、とか考えながら煙草の煙を吐き出すと同時に溜め息。


ライブが無かったらこう言う風な生活が続くんやけど、やっぱ怠いわ。


缶コーヒーで喉を潤しながら、ボーッとしとると携帯から着信。


見てみるとるき。

コイツ今日はライブやって言うとらんかったっけ?


通話ボタンを押して、耳に押し付ける。


『あ、京さんお疲れ様です。今大丈夫ですか?』
「うん。休憩中」
『遅くまでお疲れ様です』
「ん」
『今日福岡でライブ終わって皆と飯食って来たんすよ。お土産に明太子送ったんで』
「ふーん、そんなに明太子食わんやん」
『たらスパとか作ります』
「はいはい」


るきの低い声が耳元で響いて。

近くにあった灰皿に灰を落とす為に腕を伸ばす。


るきって下らん事でも電話して来たりするし、長電話好きやったりするから。
慣れた感じにはいはいと耳を傾ける。


『今日でツアー終わりました。今年はドームだけです』
「ふーん…もうそんなんなんや」
『一時はどうなる事かと思ったけど、無事終わってよかったですよー』
「は、あん時お前死にそうな顔しとったしな」


目を細めて、数ヵ月前の延期んなった時のるきを思い出す。
恥ずかしいんで忘れて下さい、と笑い混じりに言うとる辺り、いい感じないけたんやろなライブ。


つーか、やっぱライブが終わったからか若干テンション高い。


『京さん、今日は11月22日でいい夫婦の日、らしいですよ』
「…何やのいきなり」
『響きよくないですか?と言うワケで俺達も結婚式挙げませんか海外で』
「…え?御免何言うとんかわからん」
『…スタッフに聞いてですね。酔ってたのもあったんすけど、夫婦で過ごすのいいなーって』
「はぁ…」
『海外よく行くし、メンバーだけ呼んで結婚式とかしたいです』
「嫌やし海外嫌いやし」
『お互い白いタキシード着て式するんですよ!京さんが…ふふっ』
「…おい、死ぬかお前」
『すみません。でもそう言うのしたいですよね。夫婦って響きがいい感じで』
「…そこら変の女とならすぐなれるやろ」
『京さんとじゃなきゃ意味無いんですよー』


うん、知っとるけど。

何年も一緒におるんやから、るきが言う言葉ぐらいは想像が容易く出来る。


『ねーダメですか?海外で挙式』
「アカン。却下」
『えー』
「えーってどんな夢も糞もないプロポーズやねんそれ」
『ははっ、スーツしてプロポーズしましょうか』
「うわ、るきならやりかねんやんキモッ」


るきは電話口で笑って。


誰やねんるきに余計な事言うたんは。


コイツならホンマにやりそう。


るきと離れる事は考えた事ないけど、るきが言う様に形にしようと思った事もない。


おるんが当たり前みたいになっとるから。


るき相手にケジメ、とも違う気がする。


溜め息を吐いて、煙草を灰皿に押し付けた。


『まぁそこは追い追い落として行くとしまして』
「いや、意味わからんし」
『だって京さん好きなんですよーずっと一緒にいたいんです』
「はぁ…おるやん」
『…内縁の妻の座を狙えばいいですかね』
「………」


下らんるきの言葉に、アホやなぁって思う。


お前の位置付けはそれでえぇんか。


どっちかって言うと、るきのが貪欲。
…でもないか。


るきは口に出すだけ。


「もう切るで。休憩終わるし」
『あっ、はい。お疲れ様です。俺明日の夜帰るんで』
「はいはい。ほなな」
『はい、おやすみなさい』
「ん、おやすみー」


携帯を切って立ち上がる。

缶コーヒーを持って、喫煙所を出てまたスタジオに戻ってった。


メンバーも各自何かはやっとって、結構重い空気が流れとる。

けど、それは何かをゼロから生み出す為には必要な事で。
嫌な事は一切ないけど。


どっちかっつーと、僕のが機嫌悪い事多いし。


「あれ、何かえぇ事あったん?機嫌えぇやん」
「気の所為ちゃうー」
「ほうか?」
「ん」




20101122



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