ムカつくけど、好き/鬼歌



ツアーの中日。
ちょっと時間が出来たから鬼龍院さんとラーメンを食べに行ってごく自然な流れで鬼龍院さんちへ。

部屋に入った瞬間、まぁ一人暮らしの男の部屋なんて乱雑に散らかってる物で。
色々と避けながら鬼龍院さんの匂いがする部屋に上がり込む。

勝手知ったるって事で、万年床の鬼龍院さんの布団の上に倒れ込むと一瞬で鬼龍院さんの匂いでいっぱいになった。

でも俯せに寝そべったから胃が圧迫されて食べた物が逆流しそう。


「うー…お腹いっぱい…」
「淳くん食べ過ぎたよ」
「煩いなー。鬼龍院さんが食べなさ過ぎなの。だから背が足りなくて頭だけ育ったんだよ」
「ちょ、背と頭は関係無いでしょ!」


鬼龍院さんは床に座って、帰る途中で寄ったコンビニの袋をガサガサと漁って缶ビールを取り出して、プルトップを開けて自然な流れでテレビを点けた。


「…ちょっと鬼龍院さん何観てんの!」
「えっ、あ、違、前にちょっと観てただけだから!ちょっとだけ!DVDデッキに入ってたの忘れてたの!」
「…でも観てたんでしょ。サイッテー」
「だ、って新作が…」


途端耳に入った女の喘ぎ声とテレビに映された痴態。
まぁ鬼龍院さんがAV観るのはわかってるけど、僕がいる時ぐらいはやめてって思うじゃん。
鬼龍院さんの好きなAV女優に勝てる自信無いもん。

侮蔑の意味を込めた視線を鬼龍院さんに向けて、ちょっと焦った顔をしてるのに起き上がって文句を言ってやろうとした時。

見覚えのある写真に目を奪われる。


「えっ!?」
「な、何」
「えっ、何これ何これ何これ!何でこれ鬼龍院さんちにあるの!?」
「え?あ、ぁ、淳くんがすっごい推してたから」


鬼龍院さんの布団の枕元、ちょっと下敷きにされた雑誌を引っ張り出すとそれは見間違える筈も無い、僕が表紙の雑誌で。

僕がしつこく、皆に宣伝してたヤツ。

まさかまさか鬼龍院さんちにあるとは思わなかった。
手に取って雑誌と鬼龍院さんを見比べる。


「買ってくれたの!?」
「う、うん」
「ホントに!?うっそ、嬉しい…」
「淳くん格好良いしね」
「鬼龍院さん…」


鬼龍院さんの言葉に胸がいっぱいになる程嬉しくて、雑誌を持ったまま言葉を失う。
嬉しすぎて、もう感動。

AV観ててもいいよ今なら許すよ。


ゲンキンな僕はそう思いつつ、口元が緩むのが押さえられない。


「これねー、髪の毛の色を銀髪にしたくてやったらかなり時間かかっちゃってね、」
「あぁ、絵の具使ったんだっけ?」
「そう!超難しかった!周りにも時間押して迷惑掛けちゃったし」
「それはダメだけど、よりいい物を撮りたいって思う心は大事だよね」
「うん、もう、これは売れなきゃヤバい!って思ったけどねー。でも鬼龍院さん買ってくれたんだーホント嬉しい」


素直に喜んでると、鬼龍院さんも笑って照れた様子で頭を掻いて缶ビールをチビチビ飲んでた。

僕は布団に胡座を掻いて、その雑誌を見る為に捲る。


………。


「…ねぇ鬼龍院さん」
「うん?」
「これさ、ページくっついて捲れないんだけど。何したの?」
「え?淳くん男だからわかるでしょ」
「ッ!?マジでしたの!?」
「あ、うん」
「バッカじゃないの!?ちょっとAV煩い!消して!」
「えぇっ」
「いいから!早く!」


僕の声に押されて鬼龍院さんはリモコンの電源ボタンを押した。
部屋の中のBGMになってた喘ぎ声が止んで静かになる。


「って言うか何してんの?何してんの?この雑誌そう言う雑誌じゃないよね?他のイケメンさんも載ってんのに何してくれてんの?」
「ッ!や、僕も最初はそんな気持ちで見てた訳じゃなくて…淳くんのページじっくり見てたら、ね」


持ってた雑誌をバンッと布団に叩き付けると(ごめんなさい)鬼龍院さんはビクッとして視線を泳がせながら言い訳を始めた。

聞いてるこっちが恥ずかしい。

何してんの、ホントに。
僕の知らない所で。


何も言わずに、じとっと見つめてると鬼龍院さんは僕に視線を合わせ来て。


「大体さ、淳くんか悪いんだよ」
「はぁ?何言ってんの頭湧いたんじゃないの?」
「淳くんが魅力的なのが悪いんでしょ。だからいつもAVで抜くのに淳くんの雑誌で抜いたの」
「…な、に、言って、責任転嫁もいいトコじゃん!」
「そう?僕はそれぐらい淳くんに性的魅力があるって事だし、淳くんの所為じゃない?」
「…っ」


何これ。
鬼龍院さんを責めてた筈なのに、どうして僕が責められてる状態になるの。

下唇を噛みながら視線を僕が載ってる雑誌に落とす。


ホント僕は圧倒的で、どうしようも無い。


そんな言葉が、嬉しいって感じるなんて。


鬼龍院さんの癖に。


「…、変態」
「それ程でも無いよ」
「褒めて無いよ、バカ」


僕の惚れた弱味なのか、鬼龍院さんが僕のツボを押さえてんのか。
単純な悪態しか思い浮かばないまま、拗ねた表情で鬼龍院さんを見るとさっきとは打って変わって笑ってる表情に腹立つ。


悔しい。
僕は何も悪い事言って無いし、言及されるべくは鬼龍院さんな筈なのに。


「あ、でも雑誌より本物の淳くんの方がいいよ?」
「聞いて無いから、もう鬼龍院さん知らない」


何も罵る言葉が出て来ない僕は鬼龍院さんに背を向けて、ぺったんこの布団に寝そべった。


後ろで鬼龍院さんが動いて、背後に近寄って来る気配が伝わって。
丸めた身体で、ちょっと爪を噛みながら、ドキドキする心が押さえられないまま鬼龍院さんの次の行動に期待、した。




20120619



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