微熱恋/京流




前の電話から5日。
5日前、京さんから珍しく電話が来て。
めちゃくちゃ嬉しかった。

ライブ前に電話とか。
京さんにしては珍しいなって思ったけど。
声聞けるだけでも、やっぱり嬉しい。

夜にいつもの場所で1人。
眼鏡かけてパソコンをイジりながら、マウスの隣に置いてある携帯を眺める。
デスクトップにはDIRの公式サイトの映像。
だってDVDが発売すんだって。
つーかいつもいつも買いに行きにくいし、通販しよっかな。
そしたら発売日に届くかなぁ…あ、でも俺が仕事だと無理か。


そんな事を頭ん中でグルグル考えながらも、隣の携帯が気になる。
明日がライブで、今日は前日入りしてるだろうから。

電話してぇなーって思うけど。
嫌じゃねぇかな、とか考える。

5日前電話したばっかじゃんって自嘲。
仕方ねぇ。
好きだから。
もう会えねぇのが寂しすぎる。

でも自分の仕事もあるし、もうすぐライブがあるからそれの打ち合せでも忙しいから京さんを追い掛けてライブは行けねぇ。

けど。
俺は京さんと同じ立場の仕事に携わってて、今更その立場を無くして京さんの傍にいたら劣等感で押し潰されそうになるから。

この2人の距離と立場はちょうどいいのかもしれない。


もうほとんど、痛まなくなった自分の身体を撫でる。

まだ薄ら痣は残ってるけど。

昔見出だした俺の存在価値。
今もその時の俺を必要としてんのか。


「………」


やっぱり我慢が出来ずに、携帯を手に取る。
発信履歴から京さんの番号を見つけて、通話ボタンを押す。

機械音が流れる中。
5コール鳴らしても出なかったから、忙しいのかなって思って諦めて電源ボタンを押した。

京さんの声、聞きたかったな。

そう思ったからパソコンを操作してiTunesで買った『凱歌、沈黙が眠る頃』のスタジオライブの映像を出す。
この歌の京さんの声、すげぇ好き。
どの声も好きだけど。


暫らく京さんの映像をガン見してると、着信音が鳴った。

その人だけの着信音に、映像はそのまんまで急いで携帯電話を取った。


「ッ、もしもし」
『………』
「…京さん?」
『…なん』
「え?」
『何の用事』
「や、用事は無いんですけど…ただ声が聞きたいな、と…」
『ふーん…』
「…迷惑でしたか?」


何か、京さんいつもん時より機嫌悪い?
覇気がねぇっつーか…何かあったんだろうか。


『……別に』
「京さん…今…」
『うん』
「大丈夫ですか?」
『何が』
「いえ…体調、とか…?」

さすがに機嫌悪いかとかは聞けねぇ。

『…ちょぉ風邪気味やねん。喋らすな』
「えぇえぇ!?ちょ、大丈夫ですか!?暖かくして寝て下さい今すぐ!明日ライブですよね!?」
『…るき』
「はい!」
『…うっさい』
「あ、スミマセン。大丈夫ですか?看病しに行きたいんですが…」
『……アホか。僕の体調管理がなってへんだけや』
「それ、は…、そうかもしれないですけど。心配です。早く寝て下さい」
『なら電話してくんな』
「ご、御免なさい…声、聞きたかったんで…」
『…ふーん』
「風邪なのに、電話させちゃって御免なさい」
『…別に』
「掛け直してくれて嬉しかったです」
『そ』
「…京さん、好き」
『うん』
「明日も頑張って下さい」
『うん』


静かに頷くだけの京さん。
風邪だって言ってたから、声出すのもしんどいだろうな。
明日も歌うし。

でも何で俺の電話、掛け直してくれたんですか?って。
聞くだけ野暮か。
そう言う所、勝手に自惚れてもいいですか京さん。


「もうすぐ会えますね」
『ん』
「帰って来たら、嫌って程看病しますからね!」
『…ツアー終わるまで風邪治らんのかい』
「あ、治ってた方がいいですね!」
『…お前…ほんまアホやなぁ…』
「……ッ」


電話口の京さんが。
至極柔らかく、穏やかに笑った声がしたから、顔が熱くなった。


「きょ、京、京さ…っ」
『…どもんな』
「好き、好きです」
『わかっとる』
「明日も全力で頑張って下さい」
『当たり前やん』


京さんの当たり前に笑う声に、こっちも笑みが浮かぶ。
風邪だから、不謹慎かもだけど。
そんな弱々しい京さんも大好きです。


あ、凱歌の映像終わっちまった。
もう一回聞こ。

そう思って再生ボタンをクリックしてまた映像を流す。


『…お前何聞きよるねんキモい』
「大好きですから!本物の声と歌声聞けて幸せです!」
『はいはい』


そう言う京さんの声は、やっぱり穏やかで。
何でこの人はいつも俺を夢中にさせるんだろう。
もう今は。
あの時受けた痣さえ、愛しい。




20090228


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