1999→2009B/敏京
「京君、左手貸して」
「ん」
買いたいモンも買って、荷物も重かったし疲れたしで早々に帰宅。
まだ夕方やから外は明るい。
晩ご飯食べにまた出てくけど。
ケーキも買ってへんし。
買った荷物とか床にバラけさして。
敏弥が取り出したんは小さい箱に入っとるシンプルな指輪。
ほんま、何も装飾がされとらん、細身の。
「うん、やっぱ京君は指が綺麗だから、シンプルなのも似合う」
「ふーん」
左手差し出したら、敏弥が薬指にソレを入れて来た。
サイズぴったり。
ようわかったな。
まぁ敏弥そう言うトコ細かそうやしな。
「京君、俺のも入れて」
「……えぇけど」
もう一つの箱から、敏弥のサイズの指輪を取り出す。
嬉しそうに左手を差し出して来たその指に、ゆっくり指輪をハメる。
敏弥のが、長くて綺麗やんか。
ベース弾くその指。
西日が微かに差し込む中。
床はロゴの入った紙袋がごろごろ転がっとって。
そんな中、大の男が2人向かい合って何しとんって感じやけど。
何かアレみたいやな。
指輪交換。
「結婚式の指輪交換みたいだね」
「は」
何やねん。
敏弥と一緒の思考回路かい僕。
痛いわ。
「ずーっと、付けてるからね」
「うん」
「京君も、仕事以外は付けてね?」
「…しゃーないなぁ」
「ありがと。大好き」
「ん」
「誕生日おめでとう。また1年、宜しくね」
そう言うて敏弥の顔が近づいて来た。
目ぇ閉じて、キスを享受する。
指輪はずっとしとかんけど、プレゼントで貰ったジッポはずっと使うから。
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2月16日。
長野でライブとか。
何なん。
忘れとった、記憶が。
や、無理矢理塞いだ記憶やけど。
懐かしいな。
僕はいつまで、気にすりゃえぇの。
廊下の隅。
壁に寄り掛かって目を瞑る。
今は変わって、左手首に絡む、るきがくれたブレスを右手で弄る。
ライブ前。
ツアーで会われへんから。
やってるき、僕と一緒におりたいんやろ?
そう思って本人おらん時には付けるけど。
「京君」
「…なん、敏弥」
「誕生日だね、今日」
「せやな」
「ライブ中、サプライズケーキあったらどうする?」
「は、今更やろ、そんなん」
「ふーん…」
話し掛けんなや。
今更。
今、この場所で、この日に。
「…それ」
「は?」
「あの子からだよねー」
「ちょ、やめぇや」
左手首に敏弥の視線が行ったと思ったら、腕を思い切り掴まれた。
痛い。
何すんねん。
そのまま持ち上げられる、腕。
敏弥の視界にいる位置に、るきがくれたソレが晒される。
「京君てさぁ、全然変わって無いね」
「な、に…」
「愛されたがり」
「……ッ痛いやろ離せボケ」
「好きって、言ってくれて何をやっても許される、存在が欲しかったんだよね」
「とし…」
煩い。
黙れや。
今更、何。
先に手ぇ離したんはそっちやんか。
もう関係無いやん。
黙れ。
「京君の誕生日に俺の地元ってさぁー、運命かもね」
「そんなん…」
全然思ってへん癖に。
そんな顔で笑いやがって。
何でなん。
どなんしたらえぇん。
嫌やねん、こんなん。
ずっと。
何年も前から。
あの日から、コイツとの関係が。
「いい子見つけたよねー」
「…敏弥!」
「あぁ、痛かった?」
振り解く様に腕を払おうとしたら、離された。
掴まれた腕が痛い。
敏弥の視線が痛い。
また僕を否定するんやろか。
無意識に、握るるきのブレスは、僕の心を落ち着かせるまでには至らへん。
「…つーかさ、いちいちそんな顔してたら、ルキちゃん気付いて愛想つかされちゃうかもね」
「ッ、黙れ!」
「……誕生日おめでとう、京君」
響く敏弥の声。
同じ声で違うトーンの声。
その場から立ち去るのは気配でわかったけど、そこから動かれへん。
座り込んで、握り締めた両手で自らの額を打つ。
まだ、好きとかちゃうねん。
ただ仲間に戻りたいだけ。
終
20090216
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