クリスマスイヴ/敏京




「なぁなぁ、どれがえぇと思う?」
「京君の好きなの買いなよ」

仕事帰り。
世間的にはクリスマスイヴって事で。
俺と京君はケーキ屋なんかに来てみた。
早めに終わったんだけど、やっぱイヴって事もあってケーキの数は少なかった。

つーかどれも甘そう。
嬉しそうにケーキを選ぶ京君に思わず緩む口元。
…でも此処は店内。
手で口元を隠してやり過ごす。

ってか。
ケーキ屋とかガラじゃねぇし。
髪の毛派手だから目立つんだよね…早く買って帰ろうよ京君。


「ショートケーキとチョコレートケーキと苺タルトとフルーツケーキ買うわ」
「…甘い物好きだよね京君」


しかもチョイスしたのって見た目がデコレーションされてて美味しそうって思ったからじゃねぇの。
まぁ、いいけどね。

ケーキを4つ買って、店を出る。


「京君、ご飯は?」
「いらん。ケーキあるから」
「え、全部今日食べんの?」
「うん」
「…太るよ」
「あ?」
「…いえ」


そんな食ったら胸焼けしそう。

…あれ?
ってか。


「俺の分あんの?」
「え、敏弥も欲しかったん?」
「ねぇの!?」
「好きなモンでえぇ言われたし、敏弥いらんのか思てん」


うん。
わかってたけどね。
京君だしね。

チラリと横顔を見ると悪怯れる様子は無い。


「今日僕んちでえぇ?」
「え、珍しいね。いいよ。コンビニ寄ってこっか」
「うん」


いつもは俺んちに来てるけど、今日は京君ちへのお誘い。
久々だなー京君ち。

そんな事を思いながらさりげなく京君の手を掴んで繋いでみた…ら、すぐに振り払われた。


「何するん。此処外やで」
「いやー、せっかくのイヴだし?」
「無理」
「えーいいじゃん」
「っ、嫌や言うとるやん!やめぇやアホ!!」


まだしつこく手ぇ繋ごうとしたら、予想以上の拒絶。
ちょっとビックリ。


「あ…」


京君も、自分でしておいてビックリしてる。
ってか何。
手ぇ繋ぐの、そこまで嫌がんなくてもいいじゃん。
ムカつく。


「とし…」
「わかったよ」
「敏弥、…」
「行くよ」


取り繕う様に笑っても、上手く顔は笑え無い。
それは京君の表情から伺えてた。
ムカつく。
わかるよ。
京君の事は、わかってるつもり。
でも、やっぱり。

そんな拒絶しなくてもいいじゃんか。


どうしよう。
京君ち、行く事になってるし…このまま帰っちゃダメな気がする。

けど。

チラリと後ろを歩く京君を見ると、憮然とした顔。
それでも今の俺には京君を宥める様な言葉は出て来ない。


もうコンビニいいや。
めんどいし。


そう思って、2人無言のまま京君ちへ帰宅。
合鍵持ってるから、先に着いて鍵開けて勝手に中に入る。


2人は終始無言のまま。
うーん、どうしよ。


せっかくのクリスマスイヴなのにこんな空気はねぇだろ…。
後から段々後悔して来て、部屋に入りテーブルにケーキの箱を置いてその前に座り込む京君の背中を眺める。
何か、余計小さく見える。

「きょ…」
「敏弥のアホ」
「え?」


言葉をかけようとしたら、先に言われた…ってかアホって…。


「アホ。ボケ。死ねッ!」
「うわっ!?」


テーブルに置いてたケーキの箱を投げ付けられた…ちょ、これもう中身ぐちゃぐちゃじゃね?
食べ物粗末にしちゃダメだろ。

無残な形に変形した、ケーキの箱と京君を見る。




「早よ謝って来いや!このアホッ!!」




「…あ、えっと、御免ね」


言ってる事は横暴なのに、その顔を見ると一瞬あっけに取られて慌てて謝る。
ケーキの箱を置いて、近寄り京君の身体を抱き締めた。
肩に額を擦り寄せる京君。


「ほんま敏弥のアホ…」
「うん、御免ね」
「ケーキ駄目んなったし…」
「形悪いけど食べれるよ」
「食うし」
「一緒に食べようね」
「ん」



その後。
ぐちゃぐちゃなケーキを2人で食べて、京君が用意してくれていた(感動)プレゼント貰って、京君も貰いました。



「僕へのプレゼントは今日の埋め合わせもな」



…一体俺は何買わされるんだろうか…。




20081225




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