寒空の下で/京流+薫
仕事終わり。
スタジオを出ると入り口付近の壁にもたれて、俯き加減で誰か立っていた。
どっかで見た事あんねんけど…誰やねん。
サングラスにマフラーをぐるぐる巻きにした金髪の背ぇちっさい男。
待ち合わせ?
男で待ち伏せは無いやろし…。
そんな事を考えながら突っ立ってる金髪の男に近づく。
まぁそいつの前通らな帰られへんからな。
俺が近づくと、金髪の男は人の気配を感じたのかフッと顔を上げた。
耳に当てたiPodのイヤホンからは音漏れが酷い程の爆音。
何の曲かなんて、一瞬でわかる。
「…薫さん?」
「は?」
「あ、あの、こんにちは!」
「えーと…」
相手は俺を知っとる様で、iPodを止めてサングラスを外して頭を下げて来た。
知り合い?
名前が思い出せずに、金髪の男を凝視する。
「キチンと挨拶するのは初めてですよね。ガゼットのボーカル、ルキです」
「あぁ、京君の」
恋人の。
そう言えば、こう言う風に素顔をちゃんと見たんは初めてな気ぃするわ。
京君と同じぐらいの身長に、思わず笑みが零れる。
「なん、京君と待ち合わせなん?」
「はい。俺も仕事で、帰りの時間が似たような時間だったんで晩ご飯一緒に食べたいって、俺が」
「ほうか。まぁもう解散したから、その内出て来るんとちゃうか」
「はい。お疲れ様です」
まぁでも、こんな寒空ん中よう待っとるな。
どっか店にでも入っとけばえぇのに。
目を細めて笑うルキ君の頬は赤い。
これが健気に京君を待っとった言うんやから、えぇ子なんやなって思う。
「まぁまた一緒に食事でもしよや。色々音楽の話もしたいし」
「是非お願いします」
「───おい、オッサン。何スタジオの前でナンパしとんねん」
「あ」
「ッ、京さん」
憮然とした声が後ろから響く。
今までスタジオに籠もってたお陰で、イラついたオーラを纏った京君がサングラス越しにこちらを見つめていた。
俺の脇を擦り抜けて、京君の元へ向かうルキ君。
何や、ご主人様と忠犬みたいな感じやな。
「お疲れ様です」
「ん」
チラリと京君はルキ君の方を見ると、歩き出す。
続いて隣を歩くルキ君。
アカン。
笑える。
「…何笑っとんねんオッサン」
「いや、別に。何やルキ君こんなトコで待たしとかんとスタジオん中に入って貰えばえぇやん」
「は?るき関係無いやん。邪魔んなるだけやし」
「あ、薫さん…俺は別に…」
「るき、行くで」
「あ、はい。薫さん、また是非食事お願いします。失礼します」
「あぁ、またな」
俺に頭を下げてから、勝手に前を歩く京君の元へと追い付くルキ君。
「京さん、何食べたいですか?」
「肉」
「あ、じゃぁ焼肉行きます?」
「旨いトコな」
「俺ビビンバ食べたいです」
「お前デブっとんやからちょっとは控えぇや」
「太ってませんよ!これでも痩せました!」
「は、どーだか」
2人の会話は段々聞こえんくなって来るけど、京君が笑って、ルキ君も笑っとる。
じゃれ合いみたいなその行動に心の中が暖かくなるのを感じる。
よかった。
京君が、あんな風に笑ってくれるようになって。
何年も前の事を今も思い出す。
こうなる事を願っていた日々は、今叶えられた気がした。
その笑顔を与えてくれたんは、紛れも無いルキ君の存在で。
2人の後ろ姿を、じっと見つめる。
父性本能みたいなモンか。
幸せそうな2人で、よかった。
今度、礼も兼ねて飯奢ったらななぁ。
終
20090106
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