菜々は桂が去って安心するのと同時に、少々寂しく感じた。

(私に一目惚れしてた割りには、意外とあっさりしてたわね…)

気を取り直し、菜々は買い物の続きを再開した。




久しぶりに、静かな買い物が出来た。桂が付きまとっていた時は、色々煩かったというのに。

(…考えてみれば、あれはあれで楽しかったかも…)

いつの間にか、あの騒がしさが当たり前になっていた。

(どこか行っちゃったし、もうあんな事無いよね…)

菜々は自宅に着くと、鍵を取り出して中に入った。

「ただいま〜…ても、誰も居ないけど」

一人暮らしを始めて、独り言が増えたかも…と思いながら部屋の奥に行く。

「お帰り、菜々殿」

思わず足が滑った。
テーブルの傍に桂が、さも当然のような顔をして座っていた。

「ちょ…付きまとうのやめるって言ってたじゃない!」

「うむ。外で付きまとうのはやめた。家の中で、菜々殿の帰りを待つ事にしたのだ。さて…」

桂は立ち上がり、呆気に取られている菜々に近づく。

「お食事にします?お風呂にします?それとも、わだづィーーーッ」

最後まで言う前に、桂は思い切り殴られた。

「どこから侵入して来たァァァ!!」

「そ、そこの窓からだ」

口内を切ったのか、口から血を垂らしながら窓を指差す。
そこの窓は、手が入るだけの大きさに割れていた。

「そこから手を入れて、鍵を開けたのだ」

「……もしもーし、不法侵入者が一名いまーす」

「ちょ、待て、待つのだ、菜々殿」

携帯を取り出し、どこぞへと話す菜々の手を掴んで、慌てて止める。

「俺は、こう見えても本気で本気なのだ。ふざけている訳ではない。菜々殿と恋仲になりたい…。その想いに間違いはない」

真面目な眼差しに、菜々は迂闊にもドキリとした。

(よく見れば、綺麗な瞳…だよね…)

ドキドキする自分を落ち着かせて、コホンと軽く咳払いをする。

「とりあえず、窓硝子の弁償してよね。…合い鍵、作るから、もう不法侵入もしないでよ?」

「何ィ!?それは要するに、彼氏彼女の関係になってくれると受け取っても良いのだな!?」

桂は嬉しそうに目を輝かす。だが菜々の方は、そんなんじゃないと首を勢い良く横に振った。

「また窓を割って侵入されちゃ困るからよ!」

「む…菜々殿はツンデレなのだな。いや、構わぬ。そんな君にフォーリンラブ」

「ウザッ!!」

とか言いつつ、菜々は桂に惹かれ始めている事に自覚する。
こんな人物に惹かれるなんて、自分は随分と特殊な嗜好の持ち主だったんだな、と自分で呆れるしかなかった。


=終=


→あとがき


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