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「責任をとってもらおうか」
「…は?なんの…ですか?」
菜々が買い物帰りに町中を歩いていると、突然、長髪の若い侍に話しかけられた。
初対面でそんな事を言われ、菜々の頭の中は知らずの内に何かしただろうか、という考えでいっぱいになった。
「貴様、俺にあんな思いをさせておいて、とぼけるつもりなのか?そんな事が許されるとでも思っているのか!!」
声を荒げられ、菜々は慌てて頭を下げた。
「す、すいません!あの…私、なんの無礼をしましたでしょうか…?」
「俺の心を盗んだ責任をとってもらおう」
「…え?」
「全く、とんでもないもの盗んでくれたものだ。キミに一目惚れして以来、首ったけだ」
ほのかに頬を染めて、指を差してくる。菜々は、なかなか理解出来ない頭を働かせ、気付いた時には侍の頬を殴っていた。
「私に関係ないじゃない!言い回しもダサいし、変態か!!」
「変態じゃない、桂だ。桂小太郎」
「聞いてねーよ!!」
殴られても、平然な顔で自己紹介する相手に思わず突っ込む。
「こらっ、レデーがそんな言葉使いしちゃいけません」
「ウザイよ、何この人。救いようのないウザさだよ」
「レデーはレデーらしくしなさい」
「お母さんっぽい叱り方、やめてくれません?それに私は、レデーじゃなくて菜々です」
「ほォ、菜々殿というのだな」
ニヤリと笑う桂を見て、菜々はしまった、と思った。天然バカかと思いきや、誘導して名乗らせるとは侮れない。
桂は真面目な顔をして、握手を求めるかのように手を差し出す。
「ヨロピク☆」
前言撤回。
「果てしなくウザイんだよォォォ!!」
付き合いきれないと判断した菜々は、そう叫ぶと直ぐに踵を返して走り出した。
それからというもの、菜々は毎日桂に遭遇してしまう。
「ちょっと、ストーカーはやめて下さい。警察呼びますよ」
「ストーカーなど、武士たる者がするものか。菜々殿が通りそうな場所を、先回りして待ち伏せているのだ」
「それがストーカー行為なんだよ!」
後ろを付いて来る桂に、振り返って怒鳴る。桂の方は意外な顔をし、相変わらずマイペースに話し出す。
「なんと…そうだったのか。では、ボデーガードだ。最近は、過激派攘夷志士が多くなってきているからな」
「アンタだって、指名手配されてる攘夷志士じゃないですか」
「うむ。有名人だぞ」
どこまでもボケ続ける桂に、菜々は眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。
「あのですね、手配されているアナタが付きまとっていたら、私まで攘夷志士扱いされるじゃないですか。いい加減迷惑なんです!」
はっきりと言うと、桂は暫く黙っていた。やがて頷き、
「それもそうだな…。分かった。菜々殿に付きまとうのは、やめにする。ではな…バイビ〜」
最後までボケながら去って行った。
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