「それだけですかィ?」

「うん…」

沖田が据わった目でジッと見つめてくる。明らかに、何か隠してるだろ全部話せ、と無言の圧力をかけていた。

「…あの…」

そんな圧力に耐えられず、せっかく隠しておこうと思ってた内容も話してしまった。

「そーですかィ。そりゃ悪い事しやした。土方さんに関しては、頭ぶっ叩いて胸を見た記憶だけ飛ばしてやりやすから」

「いや、無理でしょ。見られちゃったのは、もう仕方ないよ…」

「俺が我慢なりやせん。記憶を飛ばすのは無理でも、何かしら仕掛けときやす」

「元々は総悟が酔ってたせいでしょ。愛撫も中途半端にして眠っちゃうし…」

ゴニョゴニョと小声で昨夜の不満を洩らすと、

「続き、して欲しいんですかィ?」

と沖田が顔を近づけて尋ねてくる。近くにある沖田の整った顔に、紫亜の心臓は高鳴りながらも、期待でコクンと頷いた。

「じゃあ、夜まで待って下せェ。頭痛が酷くて…うぇっ」

「えっ、ちょっ、待って待って!!」

急だった為、紫亜は目についたゴミ箱を沖田に差し出した。
その中に沖田は吐き出す。

「大丈夫?」

さすさすと背中を撫でながら、沖田に話し掛ける。

「す、すいやせん…カッコワリーとこ見せて…」

「カッコ悪くないよ。まだ吐きそう?」

「いや…」

「じゃあ、横になってゆっくり休んで」

今度はティッシュを差し出し、紫亜は吐かれたものを処理する為に、ゴミ箱を持って部屋から出て行った。
沖田は口元をティッシュで拭くと、冷たくなったベッドへ潜り込む。

(あー最悪。よりによって目の前で…)

紫亜は気にしてない風だったが、好きな女性の前で吐いた上、後始末までさせてしまい沖田はかなりへこんでしまった。
暫くすると、ドアが開く音がしたのでベッドから身体を起こす。

「色々とすいやせん、紫亜。夕方には多分、良くなってると思いやすんで、そん時に続きを…」

「いいよ、続きは。夕方からお仕事でしょ?土方さんが言ってたよ。ほら、寝て寝て」

「土方…バラしやがって…」

「サボる気だったの?」

半ば呆れながら、沖田を横にさせた。

「私はもうこのまま起きて、何か消化のいい朝ご飯作るね。直ぐ食べれそう?」

「ちっと無理…」

「じゃあ、作ったらここに持ってくるから。食べれそうになったら食べてね。私は作った後に仕事へ行くから」

「えっ、傍に居てくれるんじゃねーんですかィ?」

寝かされた身体を起こして、驚いた顔で紫亜に聞く。
紫亜はそんな沖田を再び横にさせ、額を撫でた。

「傍にいたいのは山々だけど、今日は絵画の借入交渉に行かなくちゃいけないの。私用で休むと先方に迷惑かけちゃうからね」

「そうですかィ」

沖田は拗ねた顔を見せ、寝返りを打って紫亜に背を向けた。

「じゃあ、独り寂しく寝てまさァ」

「…なんでそんな言い方するの。仕事に行きづらくなるじゃない」

「二日酔いになるほど飲んだ俺が悪いんで、気にせずに行って下せェ」

気にするな、と言われても沖田はさっきから背を向けたままで、拗ねているようにしか見えない。

「午後の休憩時間に様子見に一度戻るから。ねぇ、こっち向いて?」

困った紫亜は、沖田の服の襟を軽く引っ張りながら言う。そして漸く沖田が振り返った。

「戻って来た時に、昼メシも作って下せェ」

「うん、そのつもり」

「じゃあ、楽しみに待ってやす」

紫亜の言葉を聞き、ニッコリと微笑む。
沖田の笑顔を見て、不安げだった紫亜も微笑んだ。

「……」

「どうしやした?」

笑顔のまま、ジッと見詰めてくる紫亜に沖田が尋ねると、紫亜は頬をほんのり赤くして

「…キス…」

と、ねだる。

「いや、俺、ついさっきゲロったばかりだし。ゲロ味のちゅーになっちゃいやすぜ」

「総悟だから、私は別に気にしない…」

「俺が、なんか申し訳ない気分になりやすから。あ、じゃあ、午後に来てくれた時にたっぷりしてあげやす」

「本当?」

沖田が頷くと、紫亜は嬉しそうに

「じゃ、朝ご飯作ってくるね」

と部屋を出て行った。
自分のキスの約束だけで大喜びする紫亜に、沖田も嬉しくなった。
そして、同時に後悔もした。

(二日酔いでなきゃ、絶対押し倒してたな。つか、押し倒してェのに…)

まだ痛みが残る頭を抑え、今後は飲み過ぎないようにしようと誓ったのだった。


=終=


→あとがき


[*前][次#]
戻る