「聖ちゃん、聖ちゃん!!今、面白い情報を仕入れてきたわ!!」

「え…何?」

職員室に飛び込んで来た妹尾に、紫亜は驚きながらも聞き返す。

「今ね、菱川先輩の元カノが来てるらしいわよ!!」

「………そうなんだ」

「何!?その淡白な反応。言い寄られている身としては、気になんないの!?」

「え、別に…」

沖田と付き合い始めて、誰にも靡く事なく、沖田一筋で真面目な紫亜。
一人で、野次馬根性丸出しの妹尾は面白くない。

「あんだけ聖さんに言い寄っているのに、元カノに会ってんのよ!なんかムカつくでしょ!!」

「あのね、先輩とは…」

もう何でもない、と言おうとしたが

「さっ、行くわよ。元カノの顔を拝みに行くわよ!!」

妹尾は紫亜の腕を掴んで、無理矢理連れて行った。




「ここの部屋よ」

菱川が副館長になってから与えられた部屋の前に来、声のトーンを落として紫亜に話す。

「あのね…。人の事をコソコソ探るの、みっともないよ」

「じゃ、堂々と行きましょう。先輩、失礼しまーす!!」

「そういう問題でも無いでしょ!!」

紫亜の突っ込みも虚しく、妹尾は勢い良くドアを開けた。中にいた二人が紫亜達を見る。その内の一人、菱川は微笑を浮かべて、

「こんにちは、紫亜さん、妹尾さん」

と、挨拶をした。

「こんにちは、先輩…って、お客様がいらしてたんですねー」

ワザとらしい声を上げる妹尾に、紫亜は苦笑するしかなかった。

「ああ、私の幼なじみですよ。近くに来たついでに、油を売りに来ただけですから、気にする必要はありません」

「酷いわね、定一。紹介するなら、ちゃんと名前まで言ってくれてもいいじゃない」

菱川を見てそう言った女性は、軽くウェーブが入った長い髪を揺らして、また紫亜達に視線を戻した。

「初めまして。定一の幼なじみ…というか腐れ縁の櫻木恵よ。宜しく」

凜とした微笑みを見せる櫻木。それだけで大人っぽさが滲み出ている。
紫亜と妹尾も自己紹介すると、

「腐れ縁とか言ってますけど、もしかしてお付き合いでも?」

妹尾は興味深々にズバリと聞く。紫亜は慌てて、妹尾の口を手で塞いだ。

「すっすみません!この子、無遠慮で!!」

「何一人でいい子ぶってんの!気になるくせに!」

「妹尾さんが無理矢理連れて来たんでしょう!?」

騒ぐ二人に呆気に取られる菱川と櫻木。やがて、この二人の笑い声が部屋に響いた。

「期待外れで悪いけど、お付き合いなんて無いわよ。本当に、腐れ縁以外の何ものでもないのよ、定一とは」

「紫亜さん、少しでも気にしてくれたのですか?だとしたら、嬉しいのですがね」

笑われた二人…特に紫亜の方が恥ずかしくなってきて、今度は紫亜が妹尾を引っ張り、頭を下げて部屋から退出した。
シンとなった部屋に、クスクスと櫻木の笑い声が響く。

「成る程、あの子ね。定一が夢中になってる子。真面目で素直そうで可愛いわね」

「ああ、向上心もあって表情豊かで、真っ直ぐな瞳がとても綺麗な方だ」

菱川はなんの恥ずかしげもなく、紫亜に対する好意を露わに語る。

「ふぅーん。で、見たかぎりだと、恋人未満のようだけど、告白しないのかしら?」

「したよ。私が副館長になった時にね」

「あら。じゃあ、玉砕したの?昔からモテてた定一には、ダメージきつかったんじゃない?」

「彼女には大切な人がいる。いた上で告白したのだから、私の想いを受け入れてくれないのは分かっていたさ」

櫻木は目を丸くした。

「分かってた上で告白して、諦めたの?珍しいわね」

欲しいものは、諦めずに手に入れて来た菱川をずっと見てきたから、意外だった。しかし、菱川はフッと笑う。


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