05 脱がしたいという解釈について
「すみません、荷物を持っていただいて」
「シャツとベルトくらいは荷物に入りませんよ」

 沖矢さんのシャツが乾いたところで、沖矢さんに車を出してもらい近くのショッピングモールに向かった。
 食材の買い出しは最後にと考え、最初にお互いに行きたい服屋を回ることに。……とはいっても、沖矢さんの買い物は全体的に迷いがない。目に付いた服を取って、サイズを確認して、サイズが合っていたらすぐにレジに向かうのを繰り返してばっかり。あまり迷わないのは、きっと前持っていた服と似ているものを探していたからだろう。

「着ていた服が全部なくなるのは、思った以上に大変なことですね」
「そりゃあ、当然ですけど。なんか沖矢さんの買い物って……付き合ってみたけど面白くなかったです」
「それは女性の買い物と感覚が違うからじゃあないんですか?」
「ん?うーん……」

 沖矢さんは、欲しい服を見つけにきた、欲しい服を買いに来たみたいな違いを言いたいのかな。
 それもなくはないけど、違う。私や店員が手に取った服について沖矢さんは何か言う間を与えず、すぐレジに持っていってしまうからだ。色がどうだの形がどうだのとか、会話するタイミングが全然なかった。本当にいるだけでいいのか私は。

「綾瀬さんはお店をいくつも回った割に、何も買いませんでしたね」
「あー、ちょっと給料日前だからお金が……」
「ああ、パン屋の」
「絶っ対に来ないで下さい」

 きつく言ったつもりだけど、沖矢さんは「はいはい」と軽く流して次の店へ向かった。

 沖矢さんの言う通り、私は沖矢さんより多くお店を回ったと思う。気になったものがあれば手を伸ばしたし、いいなと素直に思ったものは試着までした。
 それでも買わない、いや、買えない。タグに刷られた値段を見ては、店員に謝りながら服を返すしかなかった。

「学生は大変ですね。バイトと学校を掛け持ちするなんて」
「もう、好きでバイトしてるわけじゃありませんよ」

「――では、一度解散しましょう。1時間後にまた」
「えっ……沖矢さん何か買い忘れたんですか?」
「付いてきても構いませんが、男性下着に興味があるんですか?」
「ありませんっ!」



「……よし、全部入れた、はず」

 今後使いそうな食材や調味料をカートに詰め込み終え、あとはレジに持っていくだけになった。
 車で来たからってちょっと調子に乗った、入れ過ぎてカートがかなり重い。でもタイムサービスやってたんだもん、いつもより多く運べるって分かってたら買うしかないじゃん。

 それにしても本当に重たい、箱詰めが終わったら沖矢さんに車まで運んでもらわな……

「あ!」

 ここにきて大事なことを思い出し、周囲をきょろきょろと見回す。右も、左も、正面も、背後も探している姿は見つからない。
 沖矢さん今……どこにいるの!?
 別れる時に1時間後って言ってたけど、どこで待ち合わせるかまでは言ってなかった。
 どうやって探そう。迷子センター?いや、さすがにそれでいい大人を探すのはさすがにかわいそうだ。
確か、下着を買うとか言ってたけど、お店の名前までは聞かなかった。

 沖矢さんを探すのも大事だけど、かと言ってカートをほったらかしにもしたくない。探している間にセールが終わっちゃうからせめてレジだけでも通しておきたい、でもこのカートを1人で押して行くには……駐車場は少し遠いから大変に違いない。

 ああもう、どうして携帯の番号聞いておかなかったんだろ……私も沖矢さんも。知ってればすぐに連絡取れてこんなことであれこれ考えなかったはずなのに。
 ……もう仕方ない、さっさとレジ通して自力で駐車場に向かってみよう。どうせゆっくりにしか進めないんだから、沖矢さんが早く気付いてくれれば、駐車場に私より早く着くはずだ。
 長い溜息をつき、カートを再び押そうとした時だった。カートに中に男性物のシャンプーボトルが入れられた。

「綾瀬さん、これもお願いします」
「って、沖矢さん!?」

 いつの間にか、カートの脇に沖矢さんが立っていた。沖矢さんは持っていた荷物を私に手渡すと、代わりに沖矢さんがカートを押し始めた。あれ、思ったより力があったんだ沖矢さん。

「……いいタイミングで来ましたね」
「朝から荷物を持ってほしいと聞いていたので、集合する時間あたりにスーパーに行けば見つけられると思いましたよ。でも、僕もシャンプーがないのを思い出してね。ちょうど取りに行ったら、カートを必死に押している君を見つけたんです」
「シャンプー……って、じゃあ昨日、沖矢さん」
「タイムサービスが終わってしまいますよ、早く行きましょう」
「ねえ、なんか朝シャンプー切れてたんだけど、まさか私の使った!?」



「沖矢さんってそんなにお金困ってないでしょ」
「おや、どうしてそう思ったんだい?」

 沖矢さんの車で工藤邸に戻っている時、運転席に座る沖矢さんに私は今日感じた印象を投げた。

「だって買い物してるとき、洋服のタグ全然見てなかった。お金気にしてたら、普通は見るよ?それに、財布にレシート入れとき過ぎ。だから、出費の計算しなくても生活に困っていなかったんだと思ったんです。安いアパートに住んでた割に」
「今日だけで判断するのはどうかと思いますが。そうですね……まあ、大人だからということにしておきましょうか」
「出た、大人。私だって今年にはお酒飲めるようになるんですよ!」
「ほー、そうでしたか。それじゃあ……」

 ちょうど工藤邸の門を抜け、車が駐車スペースに止まった。
 車のエンジンを切ると、沖矢さんは後部座席に置いた紙袋を引っ張り出す。そして嬉しそうにその中身を私の前で取り出した。

「飲める時が来たら、一緒に飲んでもらいましょうか」
「沖矢さんバーボンなんてさっき買ってなかっ……」
「綾瀬さんがいない間に酒屋で見つけたんですよ。ああ、それからこれ」

 思い出したかのように、再び後部座席から紙袋を一つ取り出す。……紙袋の色がおかしい、絶対に沖矢さんの服を買う店の色じゃない。

「え、これ」
「家に戻ったら、サイズが合っているかすぐ確認してくださいね」
「……?」

 その紙袋を私に押し付けると、沖矢さんは他の荷物を持って車を早々に降りて行った。
 放っておかれた私は、とりあえず紙袋の中身を確認することにした。サイズとか言ってたけど、まさか私の下着をついで感覚で買ったんじゃないだろうなと警戒しつつ中身を取り出した。



「あの、サイズ大丈夫、です」
「なにか手伝いますか?」
「前ボタンだから大丈夫でした……って、もうドア開けてるし」

 自分の部屋に戻り、渡された服に袖を通し終えた頃、沖矢さんが私の返事を聞いてすぐにドアを開けた。
入るや否や、私に近づきまじまじと見てくる。そのうち手を首元に伸ばし、生地を軽く摘んだ。

「襟がちゃんと折れてませんよ」
「え、ほんとだ」
「ワンピース、似合っていてよかったです」
「でもどうしたんですか、これ」
「綾瀬さんがいない間にこれも買ったんです。買い物中に君と回った店に一度戻って、店員と相談して選んだんですよ」
「ええ!?」

 メンズ店で店員が話しかける隙も与えなかったのに!?というか沖矢さん、どうやって相談したの!?

「因みに、君の写真を見せたらすぐに納得してもらえました。気づいてないようでしたが、店員に顔を覚えられていましたよ」
「え、この写真どこで……」
「これでもたくさん悩んで選んだんですよ、返品なんて考えないで下さいね」
「でも……」

「じゃあ、こう考えてください。
 私を住まわせてくれたお礼、昨日の美味しい夕飯のお礼、あと、今日僕に歩み寄ろうと一緒に出かけようと言ってくれたお礼」

「そんなに言われたら、返しづらい……」
「だから、返さなくていいんです」

 返し辛いなんて言ったけど、返すなんて考えてない。だってこれ、ついさっき一目惚れしたやつだから。ショールームのマネキンが着ているそれを、お店を通り過ぎる度に目で追ってたワンピースだったから、凄く欲しかったんだ。
 ちょっと思ってしまった。本当は店員と2人で相談なんかしてなくて、沖矢さんが勝手に私が欲しいものだって察したんじゃないかって。
そう疑ってしまうくらい、この人は私の気持ちをあからさまに読み取ろうとする。昨日私が泣いた後も、私が女性の沖矢さんに過大に期待していたことを言い当ててきた。
 ……沖矢さんが好きな人だったら、にやけていいんだろうなあ。

「沖矢さん……」
「はい」
「なんか、私沖矢さんに隠しごとできない気がしてきた」

 残念ながら、私はこの人に好意を抱けそうにないし、むしろ少しばかり怖い気がしてならないんだけど。

「そんなに隠したいことがあるんですか。それは興味深いですね」
「でも、これは隠してたことじゃないですよ」

 今度は逆に、私が沖矢さんにラッピングされた小さな袋を渡した。沖矢さんはその袋を受け取ってリボンを解き、袋の口を広げた。

「エプロン…」
「今朝、ご飯の作り方教えてって言ってたじゃないですか。粉とかよく飛ぶから、エプロン付けないと買った服が汚れちゃいますし……あと、今日車出してくれたお礼です」
「……大事に使わせてもらいます、綾瀬さん」
「安物だからそんなに喜ばないで下さい……早速、今から夕飯手伝って貰いますよ」
「ご指導お願いしますよ」

 渡されたエプロンに袖を通すと、沖矢さんは催促するように私の背中を押し、台所まで導いた。

「今日は、何を作りますか?」

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なんかイオンモール的なところにいるとイメージしていただければ。
男性下着ですが、最近月曜よhかしで出てきたブランドとかあって、なかなか興味深い。
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昴「そういえば、女性に洋服を贈るのには“脱がせたい”という意味があるそうですよ」
『はあ・・・そんなものもありましたね』

昴「前ボタンは、脱がしやすいですよ」

『!?』
昴「冗談ですよ」
『(あ、遊んでる・・・!)』
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腹いせにバーボンを調味料として使いそう笑。
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