June 3


 私は自分の部屋に着くと、溜息をついた。

…なんか今日1日物凄く疲れた気がする。

早く宿題を終わらせて、早めに寝よう。

だって……お兄ちゃんと顔を合わせるのが怖いし。

そう思った私は鞄から宿題を取り出すと、課題を進め始める。

…今回の課題はこの間、佐助君に教えてもらったところだ。

佐助君のおかげで基本的な所は順調に進んでいる。

応用に差し掛かったところでシャープペンは止まった。


「うーん……。」


 基本的な公式に当てはまるよう問題を解いてみる。

…解けたけど、これで大丈夫なのかなぁ。

私が考え込んでいると、そこにいるはずのない人の声が聞こえた。


「そうそう。名前ちゃん、よく出来ました。それじゃ、次はこの問題解いてみてよ。」

「って何でいるんですか、佐助さん!?」


…あ、間違えて呼んでしまった。

あまりの驚きに口が開いたままになる私と昔の呼び名で呼ばれたのが嬉しかったのか、物凄く嬉しそうな表情を浮かべる佐助君。

というか私、鍵閉めたはずだよね!?

肩を竦めて、「来ちゃった」と語尾にハートが付いていそうな口調でのたまう彼に苛立ちが隠せない。

私が聞くよりも先に彼は事のあらましを説明してくれた。


「いや、右目の旦那がまだ帰ってないのに気付いてさ、心配になって思わず来ちゃった。あ、心配しなくても鍵はかかっていたからね。ちょいと昔の伝を活かして入っちゃった。」


 佐助君、それは空き巣です。

恐ろしい犯罪行為を笑顔で話す彼に、私は言い様のない恐怖を抱いた。

なんか佐助君といい風魔君といい、うちのクラスには碌な人がいない気がする。

私は顔を引き攣らせながら、自室のドアを開いた。


「心配いりません。いつもこんな感じですから。それよりお帰りください。」

「えー、今来たばっかなのに?もうちょっと名前ちゃんの部屋の空気を楽しませてよ。」

「ってなに変態臭いこと言ってるんですか!?いいから出て行ってくださいよ。」

「俺達、付き合ってんじゃん。堅いこと言うなって。」


…尚更、それが心配なんですけど。

この間のお宅訪問のことがあってから、なるべく佐助君と密室で2人きりになるのを避けていたのだ。

勝手にピッキングして入ってこられたのは予想外だったけれど、自分の身の安全は守りたい。

頑なに出て行けという風な態度で佐助君に対峙していると、ついに佐助君は折れた。


「はぁ、しょうがないね。心配しなくても何もしないのに。それより名前ちゃん、ご飯は?右目の旦那がいないからってきっと碌なもん食べてないでしょ。俺様が作っておくから、大人しく勉強してな。」


 そう言いながら、佐助君は私の頭を撫でると、私の部屋から出て行った。

…なんか根本的な不法侵入という問題が解決していない気がする。

そんなことをちらりと感じつつも、とりあえず自分の部屋から出て行ってくれたことに安堵を覚え、再度机に向かったのだった。







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