June 1


「ほう…猿飛の家に行った挙句に付き合うことになっただと?」


――数日後、私の様子がおかしいことに気付いたかすがが放課後に私を呼び出してこの間の事のあらましを説明した後に呟いた声色はまるでお兄ちゃんのそれだった。

…かすがが怖い。

怒気を孕んだかすがの表情をちらりと見つつ、私は言った。


「いや…あの時は友達の家に行く感覚で、ですね。あとで気づいたというか……。」

「なんで慶次がおかしかった時点で気づかなかった?大体、お前は昔から無防備すぎる。猿飛を疑わなさすぎるんだ!」


 かすがの言うことが最も過ぎて何も言い返せない……。

かすがの前で小さくなる私に、かすがは深いため息をついた。


「大体、慶次も何で止めないんだ。」

「あ、かすがちゃんじゃん。名前もいるし。おーい、何してんだい。こんなところで。」

「慶次、知り合いか?」

「おう!俺の幼馴染と友達。」


――急に屋上に入ってきたのは慶ちゃんとその友達の長曾我部君だった。

…というか長曾我部君とは私、あまり話したことがない。

なんせ学校一の不良だから。

今まで地味に過ごしてきた私とは無縁の存在だ。

かすがは2人の姿を見た瞬間、舌打ちをした。

…あの、かすがさん。綺麗な顔が台無しですよ。


「慶次。何だ、こんなところで。私達は忙しいんだ。悪いが、別の場所をあたってくれ。」

「そんなこと言わずにさ、俺達はここで帰宅部の活動をしに来ただけだって。お菓子食べる活動なんだけど、名前もいる?」

「気が利くね、慶ちゃん。もらおうかな。」

「そういえば名前と佐助、付き合ったんだって?恋っていうのはいいもんだね。まさかあんとき会った時から付き合ったなんて思わなかったよ。」

「ごめん、それ誰から聞いたの?」


 慶ちゃんの言葉に私とかすがは眉を顰めた。

…どうしてごく最近のことが広がっているのか。

恐る恐る慶ちゃんに確認してみると、隣にいた長曾我部さんが鞄の中から何か取り出す。

…それは新聞部が出している新聞だった。

号外として今日配布されたらしい。

トップは武田先生のぎっくり腰が完治したという話題だったが、その片隅には慶ちゃんが先程言った内容が書かれていた。

…何でこんなことになった。

かすがも新聞に目を通すと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「…奴らの仕業だ。」

「奴らって風魔と猿飛のことか?…アイツ等、確か新聞部だったな。」

「何にしても目出度い話じゃないのかい?佐助の長年の片思いも叶ったって話だしさ。幸村なんか最近の晩飯は豪華だって大喜びしてたんだぜ。」







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