――私は慶ちゃんに向けて苦笑を浮かべた。
これからのことを考えると恐ろしい。
お兄ちゃんにはんべ、秀吉さんにも訳を話さなくてはならないし、何より陰ながらあるという「佐助ファンクラブ」のお姉さま方からにも呼び出しがあるかもしれない。
どうしよう…と内心頭を抱えたくなったが、ふと政宗さんの言葉を思い出した。
…そういえば中学時代、佐助君は女の子と付き合うものの、1月と続かないことがよくあったらしいじゃないか。
きっと私もその1人だろう。
そこまで結論付けた私は思わず口に出して笑ってしまった。
慶ちゃんが怪訝そうにこちらを見た。
「どうしたんだい?そんな声出して。」
「慶ちゃん、キモイとか思いながら見るのやめてくれる?それよりもほら、佐助君って中学時代から色々な女の子と付き合っては続かなかったって政宗さんから聞いたんだよね。私もそのくちだよ、きっと。」
「名前…その…そう思いたい気持ちも分かるがそれは違う。猿飛はずっとお前を探していた。お前の面影と似ていた女子を見つけて付き合っては別れるの繰り返しをしていたが、お前を見つけてからはそれをぴたりとやめたんだ。お前は今までの女子とは違う。私は前世から奴を知っているが、お前への執着はその頃から酷いものだ。」
「ああ、懐かしいもんだね。あの頃は名前に触れようもんなら、苦無が飛んでくる有様だったよなー…なんか今でも変わらない気はするな、この間、蹴られたし。」
「俺もあの頃、名前に近づこうもんなら、武田の忍びに殺されそうになったな。」
「って元親もなのかい?」
唖然とする私をよそに前世の佐助君に対する被害者の会が組織されている。
…もしかしてかすがだけでなく、慶ちゃんも長曾我部君も私の前世を知っている組なのか。
恐る恐る尋ねてみると、慶ちゃんはあっさり頷いた。
「俺達だけじゃないぜ。名前の周り、そういう奴らばかりだからな。」
「毛利の奴もそうだし、教師陣もお前のことを昔から知っている奴らは結構いるぜ。鶴の字だってそうだ。」
「へぇ…知らなかった。でもなんでずっと黙ってたの?」
「名前があまり前世の人間と関わりたがらなかったからだ。現にお前はずっと猿飛を避けていた。私も…前世を知っていると言ったら、お前が離れていくんじゃないかと思ってずっと言い出せないでいた。」
「…そんなことないもん、かすが!」
――私とかすがが抱きしめ合う。
それを間近で見ていた慶ちゃんは空笑いを浮かべた。
長曾我部君は完全にドン引きだ。
…いいもん、かすがに愛されていれば。
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