May 3
――あの温泉旅行から数日たった休日、私は塾の講習の真っ只中にいた。
忘れていたけど、なんて言ったって受験生なのだ。
遊んだ分、しっかり勉強しないとまずい。
隣には結局、一緒に講習を受けることになった佐助君が気だるそうな表情で講習を受けている。
…実際、彼はこう見えても成績はかなりのトップクラスに入る。
だから、本当はもっと上のレベルの講習を受けるべきだと思うんだけど、私と一緒じゃないと意味ないと言い張って全て同じ講習を組んでいた。
…大丈夫なのかな、そんなことして。
板書中、ふと佐助君の方を見ると、佐助君もこちらの方を見た。
4月の時と同じような錯覚を覚えたけど、あの時とは違って佐助君の表情は緊張感のないふにゃりとした笑顔だった。
彼はノートの端に走り書きを始める。
――「今日、ひま?ひまだったら、一緒に勉強しようよ。教えてあげる。」
今、塾でやっているところはちょうど苦手な所だったので、この申し出は素直に嬉しかった。
私が頷き返すと、佐助君は嬉しそうに笑った。
そしてすぐに講義の方に耳を傾けては気だるそうな表情に戻る。
…瞬間芸だ、あれは。
私は素直に感心してしまったのだった。
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