今日の講義も一通り終わり、佐助君の家で勉強することになったので一緒に帰る。
その間の取り留めもない話は旅行の話とか幸村さんの話とかが話題の主だった。
「でさ、旦那がまた竜の旦那と喧嘩を始めるから、俺様もう大変なの。」
「そうなんですか。なんだか兄弟みたいですね。」
「…俺様、あんな弟いらない。」
佐助君が大袈裟に肩を竦めてみせる。
…なんか昔、避けていたのが嘘みたいだ。
こんなことなら早く仲良くしておけばよかったかも。
そう思っていると、私を呼び止める声が聞こえた。
「名前じゃないかい?こんなところで何やってるんだい?」
「あ、慶ちゃん。」
「…名前ちゃん、前田の風来坊とどういう関係?」
私がいつもの呼び名で慶ちゃんを呼ぶと、佐助君が怖い顔で尋問するような言い方で私に聞いてくる。
その光景を見た慶ちゃんは両手を前にやりながら慌てて言葉を並べた。
「誤解だって!名前とは単なる幼馴染だからさ。」
「慶ちゃんには雑賀先生っていう片思いしている人がいるもんね。」
「そうそう…って人の恋路を勝手にばらさないでくれよ!」
「へぇ…名前ちゃんと幼馴染ね。……ったくなんで竜の旦那といい、風来坊といい、名前ちゃんの周りにはこんなに昔の奴らが集まってるってのに俺様は高校からしか会えなかったんだか…ムカつく。」
「って佐助!それは八つ当たりだろ!?俺に蹴り入れるのやめてくれよ!?」
佐助君は無表情で慶ちゃんに蹴りを入れる。
…というかこの2人も仲良かったんだな。
最近、あんまり慶ちゃんとは会っていなかったものだから、初めて知った。
あまりにも一方的にやられている慶ちゃんが可哀想だったので、佐助君を止める。
すると今度は私の肩を掴んで揺さぶる。
「ねぇ、他に幼馴染の男とかいないの?」
「…ちょっと待って、佐助さん。ギブですよ、ギブ!あとははんべと秀吉さんくらいしかいないですって。」
「名前ちゃんの周り、敵だらけなんだけど!?」
「っていうか今、名前。佐助のこと「佐助さん」とか呼んでなかったか?」
慶ちゃんの呟きに2人して固まる。
…なんか空気が止まった。
慶ちゃんが私に恐る恐る聞いてきた。
「…もしかして思い出したのか?俺達のこと。」
「何のこと、慶ちゃん。私、慶ちゃんのこと、一緒にお風呂入ったところから今に至るまで覚えてるよ。」
「ちょっ…そういうことじゃなくてさ!?」
「へぇ…一緒にお風呂…ね。」
「ガキの頃だって!それより話を進めさせてくれよ!」
――慶ちゃんは佐助君に向う脛を蹴られて涙目だ。
懇願するような慶ちゃんの目に私は根負けして、一生懸命思い出してみる。
「俺達」ってことはかすがと同じように一緒に前世で生きたことがあるってことなのかもしれない。
…一生懸命思い出そうとしていると、セクシーな衣装を着たかすがが脳裏に浮かんだ。
だけど、それ以外はどうしても私の夢の記憶の中で覚えているのは佐助君と幸村さんしかいない。
最近、久しぶりに夢を見たけど、その時は佐助君しか出てこなかった。
私は慶ちゃんに向かって首を振った。
「…やっぱり駄目みたい。私が夢で見るのは佐助君と幸村さんだけなの。今頑張って思い出そうとして、少しだけ昔のかすがみたいな子が思い浮かんだんだけど。」
「そうなのか…悪かったな。それにしても名前が昔のこと、知ってるなんて初めて聞いたぜ。」
「言ってなかったもの。佐助君に会うまでは単なる夢だと思っていたし。」
「へ〜、俺達みたいに全て最初から覚えてるってわけじゃないんだな。それより名前、これからどこ行くんだい?」
「今から佐助君の家に行くの。勉強教えてくれるんだって。」
慶ちゃんはどこか驚愕したような表情で私達を見やった。
…そして確かめるような声色で聞いてくる。
「えっと…友達同士…なんだよな?」
「そうだよ。慶ちゃんも行きたい?」
私の誘いに慶ちゃんは一瞬、佐助君の顔をちらりと見ると、「俺、勉強とか好きじゃねぇんだ。」と言い訳をしながら立ち去っていった。
どうしたんだろうか。
何となく恐ろしいものでも見たような表情をしていた気がする。
慶ちゃんの行動に不信感を抱いていると、佐助君は突然、私の手を取って急かすように佐助君の家へ私を連れて向かった。
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