節分話




――2月3日、仕事を終えて帰って来た私を待っていたのは満面の笑みの佐助さんだった。

…間違いなくこの人悪いこと考えている。

ドン引きする私に対し、いつものやり取りをすることもなく、食卓へと招く佐助さん。

食卓に足を踏み入れるとそこには――立派な大きさの太巻きが真ん中に置かれていた。

既に太巻きを今年の方角で食べている幸村さんがいる。

唖然としている間もなく、幸村さんは食べ終え、こちらに笑顔を向けてきた。



「お帰りでござる。本日は節分と呼ばれる日ではないか。その中に恵方巻という行事もあると聞く。佐助に作らせたのだが、いかがでござろうか。」

「…うん、間違っていないと思いますよ。心なしか恵方巻が大きいように思えますが。」

「そうでござろうか?すんなり胃に入ったので、某は気にならなかったのだが。某はこの行事、大変気に入りましたぞ。上田でも取り入れたいと思うのでありまする。」

「…旦那が恵方巻食べたいだけでしょーが。ほら、旦那は十分食べたでしょ。もう旦那にあげられる分はもうないよ。」



 そう言って佐助さんは幸村さんの皿を下げると、幸村さんは物悲しそうな目を佐助さんに向ける。

…だが、それはいつものことながら佐助さんには効かない。

幸村さんが仕方なくリビングに行くと、佐助さんが今度はこちらだと言わんばかりに私に対して給仕する。

私は自分の目の前に置かれた恵方巻を見て愕然とした。

…食べられるのか、これ。

脇には何故かニヤニヤしている佐助さん。

…あ、これ同人誌で見たことあるわ。破廉恥な奴で。

軽蔑したような視線を佐助さんに向けると、仕事のストレスをぶつけるように思いっきり恵方巻に齧りつく。

野性味溢れると自分でも思うような食べ方で食べ終わると、佐助さんは恨みがましい視線をこちらに向けた。



「…名前ちゃん、夢がない。」

「そういうシチュエーション見たことあったので、佐助さんの破廉恥な夢はお見通しなんですよ。」



 私が口を拭いながらそう言い切ると、佐助さんはがっくりと肩を落とす。

こちらの様子が気になったのか、再び食卓に戻ってきた幸村さんが私に問いかけた。



「名前殿、佐助と何かあったのか?」

「ちょうど良かった、幸村さん。佐助さんが破廉恥な病にかかっているので、豆でもぶつけて退散させてください。」

「何と…!あい、分かった。佐助、覚悟!」

「ちょっと旦那!?本気で当てないでくれる!?」

「佐助の中の破廉恥な病、この幸村が退散させてくれるわ!」



 本気で豆をぶつける幸村さんに堪らなくなったのか、佐助さんは本気で幸村さんから逃れようとする。

…報復が出来た。

私はその光景を(密かに幸佐だと思いつつ、)ニマニマしながら静観していたのだった。







 幸村さんにしこたま豆をぶつけられた後、佐助さんは再び私の傍に座った。

…どことなく空気が不穏だ。

私は逃れようとしたものの、佐助さんに力強く腕を掴まれる。



「ところで名前ちゃん、さっきのどこで知ったのかな?詳しく教えてくれるよね、名前ちゃん?」



――問いかけてくる佐助さんの目は妖しい光を放っている。

黙秘権を使おうとしたものの、腕を掴む力が強くなったので潔く観念した。

頼むから骨を折るのは勘弁してほしい。



「いつものアレです。」

「俺様、それじゃ分かんなーい。」

「…えっとBLでですね。」

「ああ、あの「あんそろじー」って奴の?」

「そうそう、そのアンソロジーです。この間の通販で買った佐幸の…ってあ。」



 私が口を滑らせた瞬間――佐助さんの口は綺麗な弧を描いた。

…罠だった。

彼は間違いなく私に聞く以前にその本の存在を知っていたに違いない。

冷や汗を流していると、愉悦の色を含んだとてつもなく良い声で佐助さんは呟いた。



「さっきの報復も兼ねて、今日はとことん付き合ってもらうよ。旦那まで利用したんだ。手加減って奴は必要ないよね。」



…佐助さんの破廉恥な夢にのっときゃ良かった。

時は既に遅し。

否応なく寝室へ連れ去られる私に抵抗する術はもうなかったのだった。




end

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節分話。
色んなサイトで見かける定番ネタだとは思いますが、当方の佐助さんでやってみました。
基本的に佐助さんにはいつも勝てない彼女です。

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