ーーある朝、いつものように目を覚ますと、腰回りに温もりを感じた。
一瞬、佐助さんかと思ったが、違う。
こんなに頭身は小さくないはず。
布団をめくって見てみると、橙頭の幼子が腰にひっついていた。
「佐助さんの隠し子?」
思わず呟いてしまった。
その間に幼子はゆるゆると目を擦り、自分の掌や足等確認して、頭を抱えた。
「うそだろ……。」
その幼子の声を聞いて、私は確認するかのように問いかけた。
「もしかして佐助さん?」
私の声を聞いた瞬間、佐助さん(小)は泣きそうな顔をして私の腰に抱きついた。
※
佐助さんの話によると、道理は分からないが、気付いたらこの身体になっていたらしい。
年の頃は4,5歳か。
私はまじまじと佐助さんを抱きあげて見つめてしまった。
くりくりとした目に幼さの残った顔つき。ヤバい。可愛い。
ーー気付いたら、抱きしめてしまった。
子供体温を楽しんでいたら、佐助さんがどことなく弾んだ声で言った。
「名前ちゃんがおれのこどもをうんだら、こんなかんじになるのかな。」
…って私が産む前提の話なの!?
あまりにもニコニコしながら話すものだから、相槌を打ってしまったが、元の姿の佐助さんとこんな話をしてしまったのを想像すると、背筋がぞくっとした。
…だってあの人、本気で子作りしたいと言いかねない。
朝ご飯を一緒に食べるとすぐに留守番をお願いして、安物衣料品店へ幼児服を買いに漁る。
なんて言ったって今の今まで、元の佐助さんの服を羽織るみたいに着ていただけだから。
どうでもいいけど、御飯を食べる姿は可愛いかった。
小さな手で一生懸命食べるものだから、微笑ましいと思っていたら、佐助さんに睨まれてしまった。
言っておくが、今の姿で睨まれても全然怖くないし、可愛い。
思わず緩む頬を隠しながら、買い物を済ませると家路を急いだ。
※
ーー家に帰ると、途方に暮れた佐助さんがいた。
話を聞くと、いつものように洗濯をしようとしたが、背丈が足りなかったらしい。
忍術で何とかすればとも思ったが、困り果てている姿が何とも可愛いので、言わないでおいた。
結局、今の姿で出来ることをしてもらいつつ、分担して家事を済ませた。
家事を済ませると、今度は何しようか。
佐助さんはとてとてと冷蔵庫の方に歩いて行くと、中身を見渡す。
「おれさま、かいものにいきたい。」
「いや、佐助さん。今日は買い物はなしにしましょう。今の姿で一緒に行くと、ご近所さんに今の佐助さんのこと、佐助さんと私の子だと勘違いされかねませんから。」
「べつにいいよ…名前ちゃんにまとわりつくむしをへらせるなら、おれさまだいかんげい。むしろこうつごうだね。」
…頼むから、その可愛い姿でそんな悪どい笑みを浮かべるのはやめてほしい。
可愛い姿をフルに使ったお願いを全精神力でもって避けながら、午後の予定を家で過ごすことに決めたのだった。
※
私だけ軽い昼食を済ませた後で、膝に小さな佐助さんを乗せながら、2人で読書タイムを過ごす。
ちなみに佐助さんが読んでいるのは渋い時代小説。
…すごいミスマッチだ。
しばらくすると、佐助さんの目がとろんとしてきた。
無理もない。小さな子にとっては、今はお昼寝の時間だろう。
すっかり眠ってしまった佐助さんに毛布をかけ、私は久しぶりの夕食作りを始めたのだった。
※
夕食時間に起きてきた佐助さんと一緒に御飯を食べる。
「佐助さんの作ったものには及ばないと思うんですけど、どうですか?」
「おいしいよ、名前ちゃん。」
ニコニコしながら食べてくれる姿はとても愛しい。
微かながら、しばらくこの姿でいてもらってもいいなと思ってしまった。
夕食もひと段落つくと、お風呂の時間になる。
どうしようかとしばらく悩んだものの、やっぱり心配なので一緒に入ることにした。
一緒に入ることを伝えると、佐助さんはキラキラした笑顔を浮かべる。
…私が元の佐助さんの姿を想像しなければ大丈夫。
一生懸命見ないようにして佐助さんの着替えを終えると、風呂場に放り、私も手早く着替え、タオルを巻く。
一緒に湯船に浸かっていると、佐助さんは嬉しそうな顔で話してくれた。
「おれさま、おさなごのころ、こんなにしあわせなことなかったから、いま名前ちゃんとこんなふうにすごせてうれしいよ。」
その姿に思わず抱きついてしまった。
最初は驚いたような表情を浮かべていた佐助さんも嬉しそうに笑いだす。
こんな時間続くといいな。
素直にそう思ってしまった。
※
ーーゆるゆると瞼を開ける。
…夢だったのか。随分幸せな夢を見てしまった。
そう思っていると、隣ですでに起きていた元の姿の佐助さんが嬉しそうに話し出した。
「おはよう、名前ちゃん。俺様、いい夢見ちゃった。俺様が小さくなって名前ちゃんと過ごす夢なんだけどね、俺と名前ちゃんの子供が出来たらこんな感じなんだなと思っちゃってさ。」
「そうなんですか。」
佐助さんも同じような夢を見ていたのに心の中で驚く。
「…ということで名前ちゃん、子供作ろう。」
突拍子もないことを言う佐助さんを朝から蹴り飛ばすと、深々と溜息をついたのだった。
end
*************
親戚の子供を見ていたら、思わず作りたくなった作品です。
もちろんIF話。
佐助さんは姿は可愛らしくとも、通常運転です。
if …もし佐助が幼児化したら