番外編〜もしももう一度井戸に落ちたのなら3〜


【佐助 side】


――燭台切の旦那について辿り着いた厨は想像以上のものだった。

まさか名前ちゃんの家にあるようなものがこんなところにあるとはね……。

本丸の古めかしい装いとは似合わないそれらに思わず苦笑いを浮かべる。

その時、不思議そうに燭台切の旦那はこちらを見た。


「どうかしたのかい?…ああ、もしかしてこの電化製品の使い方が分からないとかかな。良かったら教えるよ。」

「…いや、実は前にも同じような事があったから、俺様知ってんだよね。それより…どうやってこれを手に入れたわけ?」

「どうやってって…主の給金から出ているものだけど。現世から欲しいものはこれくらいの薄い板で主が注文したら大体は手に入るよ。」


 薄い板ってことはスマホの事か。

どうやらこの世界は名前ちゃんの暮らしていた世界と繋がりがあるらしい。

物珍しく厨を眺めていると、手際よく燭台切の旦那が調理をすすめていく。

本当後ろから見ると竜の旦那とそっくりだよね……あんまりいけ好かないけど。

変なものを入れられても困るから手伝いを申し出てみると、上手く役割を割り振ってくる。

主となる料理が出来上がると、自然な流れを装って味見をした。

美味しいが…何となく濃い気はする。

どこかで食べたことあるような……あ、右目の旦那か。

味見をして考え込む俺に燭台切の旦那は心配そうな表情を浮かべた。

…やっぱり気性は竜の旦那には全然似ていないようだ。

竜の旦那だったら、小憎たらしい笑顔を浮かべているに違いないしね。


「どうかしたのかい?もしかして口に合わなかったとか……。」

「いや、アンタはつくづく伊達の刀なんだなと思ってさ。俺様の知り合いの味に似てんだよね、これ。」

「あー…確かに最初は京育ちの人には変な顔はされた気もするね。」


 燭台切の旦那は何かを思い出したように苦笑を浮かべた後、不意に真面目な表情をつくり、俺にあることを聞いてきた。


「それより…あの子は君の世界の子じゃないんだね。一体、どうやって連れ出したんだい?」


…どうして分かったのか、一瞬よく分からなかったものの、名前ちゃんの言動で見当がついたんだろうという思考に至る。

教えるべきか迷うも、異世界で相手は人ならざる者のため、話しても害はないと思い、経緯を話すことにした。



 名前ちゃんと会った経緯、つまりは井戸の事から名前ちゃんを連れて俺様の世界まで戻ったことまで――すべてを話し終えた俺様は結末にこう締めた。


「…ま、あっちじゃ名前ちゃんは「神隠し」に遭ったようなもんにされてるだろうけどね。」

「「神隠し」…ね。」


 何故か燭台切の旦那が意味ありげに笑った。

…ま、曲がりなりにも「神」である旦那に神ではない俺様が口にするのもおこがましいってことかもしれないけど。

含みのある笑いを浮かべつつも前菜を盛りつけ終わった燭台切の旦那は続ける。


「ありがとう、参考にさせてもらうよ。」

「……はぁ、何の参考になるかは俺様にはさっぱりだけどねぇ。」

「うーん…人の感情とかその辺かな。元々刀だった僕らには分からないものだからさ。あとさ、もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな。」

「…何?」

「あの子の「名前」は真名なのかい?」


…真名。

本当の名前ってことか?

悪いけど、神職とは縁のない俺様にはさっぱりだ。

だけど、少し嫌な予感がしたから警戒を強めた。


「…それを聞いてどうする気?名前ちゃんに危害を加えるつもりなら…旦那を壊すことになるけどいい?」

「…「彼女」には害を加えないよ。聞いてみたかっただけさ。どうやら彼女は僕らの主と魂を同一にしているみたいだから、もしかしたらその謎が解けるかもしれないと思ってね。」

「…少なくとも名前ちゃんの世界で「審神者」や「刀剣男士」なんて言葉、聞いたことないぜ。」

「そうか。どうやら僕の勘違いだったようだね。忘れてくれ。」


――それ以降、調理中に聞くのはあっちの世界での料理のことなど取り留めのない話ばかりで特に気になる情報はなかった。


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