番外編〜もしももう一度井戸に落ちたのなら3〜
――告白された時は素直に嬉しかった。
私も彼のことが好きだったのだから。
応えるのに自分も好きだということを伝えると、蜂蜜色の瞳を嬉しそうに煌めかせた。
「…君も僕と同じ気持ちだなんて…嬉しいよ。」
「光忠さん…でも、私達は審神者と刀剣男士ですから、政府もそこまで推奨していませんし。あの…あまりこの仲は大きな声で言えませんよ。それでもいいですか?」
「うん、勿論分かっているよ。鶴丸さんとか倶利ちゃんとか…所縁のある一部の刀にはもう知られちゃっているけど、なるべく政府には悟られないようにするよ。」
「ありがとうございます。それだったら……。」
しばらく私と光忠さんはただの主と刀剣男士という仲だけでなく、恋人同士としての時間を過ごすことが出来た。
…そのままの関係なら良かったんだけれど…やがて現世からの色々な媒体に触れるうちに光忠さんはもっと多くのことを求めるようになっていった。
ある日の昼間、練度も限界に達し、部隊から外れている光忠さんと余暇を過ごしていると、光忠さんに聞かれたくない話題を持ちかけられた。
「ねぇ、主。いい加減君の真名を教えてくれないかい?人間ってのは有限の命なんだろう。…僕は主がいなくなるのは見たくないよ。」
「…いくら光忠さんでもそれは出来ません。私には現世にも家族や友人がいます。その人達を置いていくわけには……。」
「…君も薄情なことを言うもんだな。俺達のことはその家族っていうもんと同じくらい大切だって先日言っていたじゃないか。」
「鶴丸さん、どうしてここに……。」
「まあ、光忠。その結論は急ぐ必要もないんじゃないか?この戦が終わって、主がどうするか決めるには大分時間が残されているだろう。その時にでも選択肢を与えてやればいいさ。」
――その時の鶴丸さんはどちらかというと「中立」のような印象だった。
光忠さんを年長者らしく諌め、その時危機に瀕していた私を鋭い調子で咎めながらも、その場の事態を収めた。
大きな溜息をついてから、光忠さんは言った。
「…仕方ないね。確かにこういうのは強引だと格好良くはないよね。けれど主…少しは真面目に今後のことも考えてくれるかい?鶴丸さんの言う通り時間はだいぶ残されてはいるんだろうけど、無限じゃないんだ。君の命も然りだよ。あまりにも待たせすぎたら…君の意見も聞く余裕もなくなってしまうかもしれないけどね。」
「…お、話は纏まったな。それよりお八つの時間にしないか。倶利伽羅がさっき君を探していたぞ。」
「そうだね。短刀の子達も遠征から帰って来る時間だし、準備しておこうか。」
…もしかして鶴丸さんはお八つが欲しくて、私を助けに入ったのだろうか。
理由はどうであれ、助かった私はほっと息をついていると、光忠さんの後ろ姿を見送った鶴丸さんが出かけざまに言った。
…気のせいか不穏な雰囲気を纏っている。
「さっきはああは言ったがな……俺は別に君の味方をしたわけじゃないぜ。戦が終わった後、君が現世に帰る方をそれでも選ぶんだったら…俺も光忠の方につかせてもらうぜ。君に会う前の以前のように刀に戻るんじゃ、驚きが足りなくて死んでしまうからな。きっとこの本丸の大多数がそう思っているんだろうよ。」
鶴丸さんの言葉が耳に残る――夕方に寝るにも近いような昼寝から起きた私は目を擦る。
ちょうど良いタイミングで襖越しに控えていたのか、長谷部さんの声が聴こえた。
「主、夕餉の時間です。起きられましたら、俺に声をおかけください。」
その長谷部さんの声に応えるために私は襖を開けた。