【暖かな春のある日】
――3月も半ばを過ぎたある日、私は転職活動の真っ只中にいた。
…といっても既に面接は終わっており、あとは今いる会社の退職手続き等に追われているだけなのだが。
そんなこんなで毎日、仕事のものを家に持ち込みながら忙しなくしていると、家のことがどうしても疎かになってしまう。
そんな時――…やっぱり佐助さんの存在は欠かせないものとなってしまうのだ。
…本人の意向(忍びとして)とは真逆に家事能力全般が如何なく発揮されるという点においてであるが。
休日の朝、お布団の中でゆるゆると瞼を開けると、春の暖かい日差しがカーテンの隙間からさしていた。
…もう少し寝ていよう。
瞼を閉じ、徐々に意識を手放そうとすると、今まで背後に張り付いていた感触がもぞもぞと動いた。
今までお腹に回っていた腕が上にのぼって来て胸に至った。
そして――胸を揉む素振りをしてみせたその手を私は抓った。
「…名前ちゃん、酷い。」
「酷いのはどっちですか。朝から破廉恥なことしないでください。」
「えー…今日は名前ちゃんの非番の日なのに?」
…朝からそんなことしていたら一日無駄になってしまうので、それだけは避けたい。
そのことを訴えたところ、佐助さんは渋々寝床から出て行った。
…「今夜、楽しみにしてるよ。」としっかり言い残して。
約束は約束だ。
私は深い溜息を一つつくと、今日一日を始めるために立ち上がったのだった。
暖かな春のある日