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10 「彼の願いと彼女の役割」


10


「もしこのゲームで自由に世界を行き来できるとしたらどうする?」



 正直、こいつ頭でも打ったのか?と思った。


だっていつもの佐助さんだったら言わないようなことだったからだ。


 「は?」としか言葉を発することができずにポカンとしている私に佐助さんが続ける。



「さっきまで真田の旦那と話していたことなんだけど、聞いてくれる?…俺様さ、思い出したんだよね。井戸からこっちの世界に来る直前のこと。」





――佐助さんが話してくれたことを簡潔にまとめると、このようなことだった。

 井戸に入った途端、気を失って何やら変な見たこともない服装の奴が夢で出てきて、願いを叶えると言ったこと。

 その時、佐助さんが思っていたことは「癒しが欲しい。休みが欲しい。」だったとのこと。(ワーカホリックの佐助さんらしい。)

 そうしたらこの世界に出てきてしまったこと。

 更に驚くことに、同じような夢を幸村さんもこの世界に落ちる前に見ていたらしく、その時は御館様の上洛を願ったらしいが、首を振られて気づいたらこの世界に落ちていたとのこと。




 あまりにも非現実的な(佐助さんが今ここにいることも非現実的だけれども)話に私は眼を瞬かせた。

そんな私を置いて尚も佐助さんは続ける。



「もし俺様の願いが叶っているんだとしたら、この世界と俺達の世界は双方向に繋がっている可能性が高い。現に旦那はこのゲームを媒介にこっちの世界に現れている。」

「…ということは佐助さんもこれを使って帰れるってこと?」

「俺様は井戸からこっちに来てるから、旦那と同じ方法で帰れるとは思わねぇけど。とりあえず…旦那には実験台になってもらうよ。」





 佐助さんはそう言うと、いまだに話の筋が読めない私を置いて、ゲームを始める。


いいのか?自分の主人を実験台にして。


 プレイヤーキャラクターは勿論、幸村さんで自由合戦モード、長谷堂城突破戦をステージとして選ぶ。

 どうやら幸村さんがこちらの世界に来た時と同じ状況を作り出すらしい。


また伊達政宗が倒されるのか。

確かファンサイトでは割かし佐助さんと伊達政宗は仲が悪いように描かれていたな…あながち間違いではないのかもしれない。


 先ほどまで幸村さんがプレイしていたため、レベルもそこそこ上がっており、佐助さんは大して時間もかけずに伊達政宗を倒した。

 するとほどなくして――…にゅるりと幸村さんの頭がテレビから生えてくる。


実験は成功のようだ。



「…俺様の読み通り。」



 佐助さんは生えてきた幸村さんを引きずり出してリビングに寝かせる。

2人して見守っていると、幸村さんは起き上がった。



「旦那―?起きた?」

「む……佐助か。確か俺は上田城に帰ったはずだったんだが。それより聞くのだ、佐助!俺が戻っても時は進んでいなかった。」

「ふーん…時間が進まない…ね。ますます俺様の読みも捨てたもんじゃないってことか。」

「ちょっと説明お願いしてもいいですか?」



 何か訳知り顔の佐助さんにお手上げ状態の私は説明を要求する。

 佐助さんの話曰く、こちらの世界に来る条件としては私ではなく、佐助さんあるいは佐助さんの世界の人(未確認)がこのゲームで出したい人を選んでゲームすることであり、帰る条件としては自分自身のキャラクターを選んで天下統一モードをクリアすることであるらしい。

 そして、先ほどの幸村さんの話によると、こちらの世界で過ごした時間は向こうではカウントされず、戻るときには元いた時間、場所にしっかり戻るとのことらしい。


 それから幸村さんは帰ってからも1か月は過ごしたらしく向こうで佐助さんに会ったこと、幸村さんのものと同じ方法で帰り、再度休みの度に井戸で行き来していることを聞いたらしい。


…なんかさっきしんみりしたのを返してほしい気がする。

むしろ帰ってからも好き勝手にこっちに来ては勝手にEnjoyしている向こうの佐助さんに憤りを感じる。



「もしかして佐助さんの意思でこちらとあちらの世界が行き来できるってことですか?」

「…どうもそのようでござるな。」

「私の家はリゾート地か何かにどうやらされていますね。」

「その「りぞーと」ってのは何かわからないけど、日ごろ働き詰めの俺にカミサマがくれたご褒美ってやつなんじゃない。やっぱり俺様の日ごろの行いがいいからね〜。」

「(どの口が言うか。)…では、帰る方法も分かったということで、帰ることにしましょうか。」



 私の言葉に幸村さんはしゅんと項垂れる。

どうやら幸村さんにとっては1か月ぶりにここに来たようでまだまだここで遊びたいらしい。


向こうの時が止まると分かったなのか、完全にリゾート地だと思っているな、この野郎。

…でも、項垂れる幸村さんが可愛くて少し罪悪感が生まれる。

やっぱり可愛いは正義なのだろう。こんな弟としばらく生活してもいいかもしれない。


 そう思った私は事の元凶である佐助さんの方へ矛先を向ける。


そうだ、こいつには前科がある。

押し倒し紛いに、人前での辱め等、帰す理由は十分じゃないか。



「それでは佐助さんは向こうへ帰る支度をしましょうか。幸村さんはもう少しここに残りたいみたいですし、私が休暇中は家に滞在を許可します。」

「まさか名前ちゃん、俺様だけ向こうに帰す気!?そりゃないって!旦那だけここに残すわけにもいかないっての!」



 帰るつもりもないような佐助さんが続けて私の耳元で囁く。


「…旦那にあのことバラしてもいいの?」と。

反則だ。

そうだ、こいつにはこういう手札があった。

せっかく一日でここまで幸村さんと仲良くなったので、あれをバラされるのは避けたい。


 渋々、佐助さんに幸村さんと同様、休暇中のみの滞在を許可した。大変不本意ではあるが。



「いやー、これから改めてよろしくね、名前ちゃん。」

「(何を白々と…)はいはい、よろしくされました。ただし、私、あと5日しか休み取ってないので、最終日になったら帰ってくださいね。」

「うむ、名前殿とまた会えて某も嬉しいでござる。迷惑をかけると思うが、よろしく頼みまする。」



 軽い態度の佐助さんに礼儀正しい幸村さん――普通、主従関係としては逆なんじゃないか。

私は深々と溜息をつきながら、彼らの滞在をすんなり受け入れたのだった。



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