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翌朝、いつもより遅い時間に目が覚めた私は部屋の中に漂う美味しそうな匂いに気付く。
…これはもしかしてお味噌汁?
寝ぼけまなこを擦りながら起きてきた私に佐助さんはにこりと微笑む。その微笑みが私には何となく昨日とは違ったように感じて、思わずドキッとする。
「名前ちゃん、起きるの遅かったね。朝餉用意しておくから、着替えてきな。旦那のもの買いに行くんだろ?」
「はーい、おか…佐助さん。」
「…今、何言おうとしたの?」
「何でもないです。着替えてきます。」
あまりのオカンセリフに本音が出そうになったが、不穏な空気が漂ったので、自分の部屋へ着替えに行った。
佐助さんのつくってくれた朝食はまさしく完璧に近いものだった。
まるで温泉旅館に泊まった時の朝食みたい。
久しぶりにまともな朝食にありつけた私は喜びを噛みしめながら食べていると、佐助さんが穏やかな表情でこちらを見てくる。
一体、何なんだ。こちらが一体、何をしたというのか。
…やっべ、昨日やってしまったんだっけ。
あまりにも居心地が悪かったので佐助さんに伺うように話しかけてみた。
「あの…何か?」
「いや…そんなに美味しそうに食べてくれるなんて作った甲斐があったってもんよ。俺様、大感激ってね。」
私の頭をがしがしと撫で、彼は席を立つ。
本当に一体、何なのだ。
佐助さんの不可思議な態度の変化に私は戸惑いを隠せないでいた――
朝食も一通り終わって、出かける準備を始めようかと思い立った瞬間、今の今まで忘れていた人物を思い出した。
真田さんは?
私がそう佐助さんに聞くと、目線で場所を教えてくれる。リビング?リビングを覗くとそこには、戦国BASARAを起動してプレイする真田さんの姿があった。
真田さんは私や佐助さんがプレイするよりも巧みに自分自身を操作して大阪夏の陣の戦場を攻略していく。
呆気にとられる私を尻目にいとも簡単にホンダムを倒していく。さすが本人…プロのようなプレイに息をのむ私の横にいつの間にか片づけを終えたのか佐助さんが並ぶ。
「名前ちゃんが起きてからずっと気になってたみたいで…あまりにもあのげえむについて聞いてくるもんだから、つけて操作方法を教えてやったんだよ。そしたらあの通り。」
どうやら私が着替えて朝食を食べている間、熱中してプレイしていたらしい。「静かだから放っておいたんだけどねー。」と笑う彼をじと眼で見てから真田さんに声をかけた。
「真田さん!外に行きますよ!まずはゲームをやめてこれに着替えてください!」
「だが、某、まだ「天下統一もおど」とやらを攻略しておらんのだ…しばし待ってはくださらぬか?」
「いいんですか?買い物が終わったら、団子以外の甘味も紹介しようと思ってたんですけど…行くのが遅くなったら食べられませんね、残念です。」
「甘味……!あい、分かった。某も買い物のお供をするでござる!」
「名前ちゃん…旦那の扱い方が格段にうまくなってるよね。」
「…昨日の予習の成果ですかね。」
――だってどのサイトの真田さんも甘味で釣られていたし。
そもそも団子を目の前にした真田さんの目がマジだったのを覚えているから、この方法は何となく知っていたといえる。
真田さんに着替えを渡すと、物凄い速さで着替えてこちらに向かってきた。
甘味効果恐るべし。