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8 「甘美な毒」





――私がお風呂から上がると、そこには1人暮らししていた時のいつもの静けさが広がっていた。


 ようやく日常に戻ってきた。


 長期休暇のためにとっておいた缶ビールを冷蔵庫から出し、こたつ布団に申し訳程度にくるまりながら寝室からリビングに避難させておいたPCをつける。

 深夜にサイト徘徊。休暇中の醍醐味だ。

 いつものジャンルを徘徊した後、「戦国BASARA」で検索をかけてみる。


 あれだけシリーズ化しているんだから、二次創作は沢山あるだろう。

 …予想通り沢山あった。


 その中で真田主従サイトを見つける。


 試しに読んでみるか。



 結論から言おう……私はハマってしまった、このジャンルそのものに。

 真田主従を足掛かりに伊達主従、関ヶ原、瀬戸内とサイト巡りにかなりの時間を費やしてしまった。


 だからこそ気づかなかったのだろう……途中から一部始終を見ていた奴の気配に。



「ふぅ……我ながらとんでもないジャンルを発掘したもんだね。今までアクションゲームだからって遠ざけていたのがあほらしくなってきた。一番は真田主従なんだが、伊達主従も小十郎の健気具合が捨てがたいよなぁ。ハマった、うん、物凄くハマった。」

「へぇ〜…そんなにハマったんだ。」

「うん、真田主従に関してもBLになると、下剋上な感じが堪らないんだよね……ってえ?」





――振り向くとそこには青筋を浮かべた彼の極上の笑顔があった。





「これは…一体、何なのかな?素直に吐いてもらえると旦那も起こさずに済んで助かるんだけどな。」

「…ほら、あれですよ!佐助さん達の世界をもっと知ったほうが早く帰れる手がかりになるかなと思って、検索していたんですが、思いのほか物語が面白くてですね……。」

「ふーん…で、何の話を読んでたの?」

「えーと……主にサナダサントサスケサンガナカヨクスルハナシデス。」

「アハッ、俺様、そんな抽象的な言い方じゃわかんなーい。あと、忘れてると思うけど、俺様、この世界の字が分かるんだよね。」

「大変申し訳ありませんでした!」



――大変綺麗な笑顔の彼の前に正座で事の次第を洗いざらい話す。

 その間も彼は表情を崩さない。


 …これは許してもらえないかもしれない。


 びくびくする私に佐助さんは眼を細めて問いかける。


 まるで尋問だ。それに近いのかもしれないけれど。



「…そういえば最初、「ぱそこん」で開いていた場所は俺達の世界の作品ではなかったよね?もしかしてそういう男色関係の話が好きとか?」

「時と場合によりますよ。作品にも寄りますし。愛の形が広がったととらえてください。(この際、許してもらえないなら一緒だし、聞きたいこと聞いておくか。)それより佐助さんの世界には男色とかないんですか?こちらの世界では武田信玄、上杉謙信、伊達政宗など名のある武将は男色を好んだと聞いておりますが。」

「…俺様の知る限りでは聞いたことがないね。武将や貴族、坊の中にはそういう輩がいるってことは知ってはいるけど、御館様に限ってそんなことはないし。少なくとも俺様と真田の旦那はそういう関係ではないよ。」



 私の疑問に眉を顰めながらもしっかり応えてくれる佐助さんはある意味、親切だ。


 応えてくれたことに対して、少し感動を覚える私に佐助さんは「それに…」と続ける。




 その瞬間、視界が反転し、私は正座の姿勢が崩せないまま(というより足がしびれて動かせない)仰向けに倒れる。

 顔をあげると、佐助さんの妖艶な微笑みが間近にある。


 これってもしかして……貞操の危機?



「佐助さん……何してらっしゃるのですか?」

「んー?いやー、名前ちゃんがちょっと勘違いしているみたいだったからさ。俺様、男を組み敷くよりもこっちの方が好みだってこと教えてあげようと思って。手取り足取り…ね。」



 うん、間違いなく貞操の危機だ。間違いない。



 すかさず逃げようと試みたが、さっきまで正座させられていた足は思うように動かない。


 …最悪だ。


 私が碌な抵抗もできぬまま身体を固くしていると、佐助さんは耳元で「真田の旦那に気づかれちまうよ。」と囁く。


 こんな時に子安ボイスを使わないでほしい。反則だ。


 声を聴いた瞬間、身体の力が抜けていくのが分かる。


 もうどうにでもなれ。


 心の内で投げやりになりつつも目を瞑ってむず痒さに堪えていると、唇に柔らかいものが触れた。

 ようやく目を開けると、そこにはさっきのような気配を纏った佐助さんではなくて、穏やかな表情を浮かべた彼がいた。



「…これで懲りたでしょ。」

「…はい、それはもう十分に。あの…申し訳ありませんでした。」

「いいよ、許してあげる。それに面白いことも発見できたしね。」



 佐助さんがさっきの笑顔とは異なった悪戯っぽい微笑みを浮かべる。

 きょとんとする私にまた耳元で囁く。



「名前ちゃんが俺様の声が弱点だってこと。」



 真田さんばりに顔が真っ赤になってしまった私は最大の弱点を握られてしまったことに気づき項垂れた――

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