朝がくる前に

08.暗夜



“五条悟”の突撃訪問を受けてから、早数週間が経った。



幸いにも、この間には一度も訪問は受けていない。







あれからの私は、暇があればどうこの状況を切り抜けるかについて考えに考え、





――――てっとり早く身を隠すのが一番なのでは?という結論に至った。





だが、現実はそんなに簡単ではなくて。






身を隠すといっても、一度夜道で会っただけの私をすぐに突き止められたのだ、きっと一時的な方法でしかないんだろう。



それでも、これ以上訳のわからないことに巻き込まれるような危険性は回避したい。




次にどこに逃げるかが問題で、本当ならばこの東京から出るべきなんだろうと思う。




だけど、この期に及んでもまだ、この街を離れたくないと思ってしまう自分がいる。




姿や形は違っても、ここは少なくとも“私”が存在した街と同じところなはずで、


少しでも元の世界との共通点のそばにいたくて仕方がない。


帰る方法もわからないし、どうしてこっちに来てしまったのかももっとわからない、帰れる保証なんてない、それでもここを離れたくはなかった。




そしてもう一つの懸念は、身を隠せたとして、また見つかったらそろそろ私は無事ではないのではないか?という単純な疑問だ。




そういう存在になってしまったのは明らかに私のせいなのだが、“五条悟”にとって私の存在は怪しいものでしかないだろう。



この“呪術廻戦”がどういう世界観の話なのかはあまりよくわからないが、ジャンプだし
きっとバトル漫画だ。それかスポーツ漫画だろうけど、呪力とか言ってたし、スポーツではない。と思いたい。



バトル漫画だとするならば、戦う相手、つまり敵がいるはずなのだ。



“五条悟”が、挙動不審であったとしても、いやむしろ挙動不審であったからだろうけども、わざわざ私にコンタクトをとってきたのは、おそらく自分にとって敵か味方か判断するためだ。



その判断にきた場でまたまた怪しい行動を繰り返した挙句、いなくなりました、となればもう私ならば全力で敵認定をしてしまう。



でも巻き込まれたくない、きっと逃げるのが一番いいはず、というか逃げたい、の延々ループ。






一応、逃げるにしても筋は通さなければと思って、店長にさらっと「私毎日入れなくなるかもでーす」と話してみた。



入れなくなるかも、から徐々にフェードアウトしてやめる方向に持っていく姑息な作戦だ。
学生時代のバイト先でよくやった。まさか社会人になってまた使うとは思ってなかったが。



すると返ってきた返事がこうだ。「ええっ、困るよ〜。何かあったの?就職活動するの?」



それはそうだろうなと思った。


何せ私は自分で言うのもなんだが、優秀なバイトだと思う。

バイト故に社員ほど人件費はかからない、でもシフト融通は効く、学生バイトと違って朝から出勤できる、今では週6で開店から閉店まで働いているのだ。






だから結局今日も本をブックカバーに包みながら考えることはひとつ。




―――――身の振り方、どうしよう。











何を何度考えても、
明確な正解なんてわからない








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