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「ああっ!あげすぎ、あげすぎです水っ!」

二人が花の世話を始めて数日。

雪弥は鉢から溢れんばかり、というか溢れさせる程に水を与えてるアラストルを慌てて止めた。
これは世話を始めて直ぐに分かったことだが、アラストルは"世話"や"育てる"といった行為がとても下手だ。
まぁ確かに見た目的にもそういった行為が上手いというのもイメージと合わないのだが、だとしてもこれは酷い。
なぜ水やり一つでここまで出来ないのだろうか。料理とかならまだ分からなくもないが、しかし今やっているのは水やりだ。小学生でも普通に出来る。

水をあげてくれと言えば、一目で過剰だと分かるくらいにあげ過ぎ、もっと少なくと言えば今度は少な過ぎる。
中間や適当という言葉を知らないのだろうか彼は。

――――まるでアラストルの愛情そのままだ。
なんとなしにそんなことを思う。
大切なもの、愛しいものには異常なまでに愛を注ぎ、そうでないものには、欠片の情もやらない。
しかしそれは、それでは――……。

「何度も言ってますけど、あげすぎですよ、もう…」
「む、すまない」
「こんな溢れるくらいあげなくても良いんですよ。だからって前みたいに数滴ってのも駄目ですけど」
「そうか……」
「いきなりこんなに水をあげたら花…今は種ですけど…もびっくりしちゃいます。花は基本、繊細なものだから、あげすぎても少なくても芽をちゃんと出してくれません。だからもう少し加減してあげて下さい」
「あぁ……」

答えるアラストルの言葉はどこか歯切れが悪い。
眉間によった皺は見慣れたものだが、今刻まれてるそれは困惑、戸惑いといったアラストルには似使わしくないものだ。
おそらく雪弥の言葉の意味自体は分かるのだろうが、本能的なところで理解が出来ないのだろう。勝手な推測だが、そうそう間違ってはいない筈だ。
なんとも難儀なその愛情表現に雪弥は知らず、ため息を吐いた。

「まぁこんなこと、貴方は始めてのことですもんね。まだ慣れないのかもしれません。
……次はちゃんと出来るようにしましょう。
わからなかったら知れば良いんですから」
「…すまないな」

そっと雪弥は微笑みアラストルに答える。

「いいえ。
でも、まだ一人で出来るのは先になりそうですね」

微笑むその姿は呆れや負の感情などは見えず、優しげだ。
それに口には出さないが、なぜだか、そう、少しだけアラストルとこうすることが楽しいのだ。

雪弥は未だ芽の見えない土に視線を落とした。
正直こんな杜撰な世話の仕方でちゃんと花を咲かしてくれるか不安なものがある。
あるが、もしそれでも花を咲かしたらそれはきっと……。

(綺麗な花になる…)

そう確信にも似た思いが根拠もなくあった。

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