「なーに、そんな顔してんの」

欝々とした表情が分かったのだろう、黒田が顔を覗きこんでくる。
細い目が少しだけ開かれていた。

「うっせ。何でもねーよ。さっさと行くぞ」

その態度が、またなんとなく日々木を苛立たせて顔を反らす。
そのまま横を通り過ぎようとして、黒田が腕を掴んだ。

「そんな顔して、何もないわけないでしょ」
「別に、くろちゃんには関係ねーだろ。
……くろちゃんだっていつも俺になんも教えてくんねーじゃん」

そう言ったら、間抜けた顔の黒田がいた。
なんだか珍しい。おかしくてじっと見つめる。

「あー…うん、そゆことね」
「……ンだよ」

やる気のなさそうな眉毛が今だけ、眉間に寄る。あーとかうーんとか意味もない声を上げながら、髪を掻き毟る。天然パーマの頭がますますぐちゃぐちゃになって、鳥の巣みたいだった。
その間、日々木の腕は離されていない。

「さっさと行こーぜ。俺腹へった。ハンバーグ弁当食いたい」
「あぁ、うんそーね……。ねぇ、日々木」
「なんだよ」
「俺のこと嫌い?」
「はぁ?いきなり何言ってンだ。バッカじゃねーの」
「えー、俺馬鹿?」
「そーだよ。そりゃくろちゃんってだらしねーし、俺にはなんも言っちゃくれないけど、……まぁそれは少し嫌いだけど、でも好きでもなかったら一緒にいねーよ。何当たり前のこと言ってんだ」
「…当たり前かー、そっか」

唐突に理解不明な問いかけをしてきた黒田を、何言ってんだこいつ、と思いながら答える。
日々木としては当然のことを言ったまでなのだが、何故か黒田は安心したように、日々木の肩に顔をうずめた。
黒田の思考回路がよく分からないことは何時ものことだ。仕方ないので、日々木は不器用な手付きでぐちゃぐちゃの頭を撫でた。

「ねー日々木」
「なんだよくろちゃん」
「……ごめんね」
「……別に」

やっぱり黒田は秘密主義の嘘つきだ。
謝罪ですらたくさんのことを隠して言う。
だが、日々木にだけはその仮面が外れる時がある。本当に、ごくたまにであるけれど。

「あっ、おい、くろちゃん!」
「んー?」
「星!めっちゃ出てる」
「ああ、本当だ。今日は晴れてたからねぇ」
「東京でも星が見えるんだなー」

二人が見上げた夜空の一部分には、小さな星々が輝いていた。

暫くそうやって見上げていたがいい加減寒くなってきた。白い息がけぶる。

「うーさみー」
「そろそろ行く?」
「ん。早くハンバーグ弁当食いたい」
「はいはい……、あ、タバコきれてる。とってきていい?」
「コンビニで買えよ」
「えー…、まいっか」
「早くしよーぜ」
「んー」

そしてやっと二人はコンビニへ歩き出した。

「あーなんか鍋食いたい」
「ハンバーグ弁当じゃないの?」
「そーじゃなくて、こうゆー寒い日は鍋でも食いたいなーってやつ」
「ああ。……今度する?」
「する!」
「じゃ、明日か明後日にでも買いに行こーか」
「おう!…あ、コンビニ見えてきた!」
「走ったら危ないよ」
「……走んねーよ!」
「はいはい。ね、日々木、ハンバーグ弁当売り切れてないといーね……って、あ」

獲物に飛びかかる肉食獣のように走り出した日々木を見て、黒田は柔らかく笑った。

そんな二人のある日の一場面。


ハンバーグ弁当は一つだけ残っていた。


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