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エセ王子



入社3か月目に親睦を深めると言う名目の社員旅行があった。
そこまで人数が多い訳では無いけれど、私が1人輪から抜けても大して気にされないくらいには十分。
私以外の女性社員は割りと華やかなタイプで男性社員とも楽しげだ、私は人見知りではあるけれどこれも仕事の一貫だと思えば食事を和やかに過ごすくらい笑顔を張り付けてやり過ごす事は出来る。

だから頃合いを見て満腹を言い渡し夕食のバイキング席から立ち、そのままお先に温泉に浸かり入れ替わりに来た他の人達にも笑ってすれ違い、今ようやく1人の時間に行き着いた。


大人数があまり得意ではない、仲の良い気の知れた友人と少人数で遊ぶ方が好きだし、それに加えて私と真逆のような華やかな女性陣が苦手。
会話が盛り上がるのは分かるけどコーヒー淹れるのにどんだけ時間掛かるんだってくらい喋ってるし、上司が苛々しながら私に言いに行けと目で訴えてくるから、もうお願いだから勘弁してくれと思ってしまう。私の関係無い所でなら良いものを被害被るのは御免だよ、つまり関わりたくないから温泉一緒にと誘われる前に逃げて来た。

一緒に居て楽しい人も勿論居るけれど、1人も好き。
温泉も好きだからロビーの影にあったお酒の自販機前のソファー陣取って、端から見たら寂しい女だろうけども缶ビール片手に1人で寛げちゃうからね。


「っ、……」

「……っ、え、と、……お疲れ様、です」


通行人も全然居なかったのに突然勢い良く人が角を曲がって来て向こうも驚いて止まったから、缶ビールを口の前で私もフリーズして つい口からでた言葉がお疲れ様だったけど無言で返された。

知らない人ではない、同期だね、話した事は仕事以外で無いけど女性陣皆狙ってるらしいよ、休憩室で話してたのを曖昧な笑み浮かべながら聞いてたもん私。


「匿って」

「……は?」


驚いたように目を見開いてたのに、じっと見て来たかと思ったら意味の分からない事を発して自販機の影に身を潜め始めた。

隠れんぽでもしているの? はしゃぎ過ぎじゃないかな。


「あれぇ? 沖田くん居ないよー? こっち来なかったー?」

「……通り過ぎてったよ」

「もう歩くのはやーい、ここで1人で飲んでるの? 一緒に追いかけっこする?」

「いや、しないかなぁ、ははっ」

「私達部屋戻るの遅くなるかも知れないけど1人で大丈夫?」

「うんありがとう、全っ然大丈夫、先寝てるよ」

「そっか! じゃあまたね!」


パタパタとスリッパの音が近付いて来て現れた女性陣に何と無く察した。
隠れんぼじゃなくて追いかけっこだったんだ、確か王子様なんだっけ? イケメンも大変なんだな。


「うっぜ。何なんでさァ、しつけェな。」


……え? え、口悪っ、王子様ってキャッキャされてる……よねぇ? 仕事中もそんな口悪いイメージなかった、普通にやり取りしてたし女の子とも仮面張り付けたみたいに笑顔乗せて話してたと思ったけど……、王子様本性現れてるよ、こわ。


女性陣が居なくなった直後、舌打ちしながら乱暴に隣に腰かけて来た事でソファーがギシッと軋んだ。

こう言う時なんだよ、急に訪れた大した話した事も無い人との二人きり、そして不機嫌。笑顔で話掛けてくれる人なら私だって笑顔で頑張れるけど、溜め息吐きながら天井仰ぐ程疲れてるのか苛立ってるのか知らないけど兎に角気まずい。部屋戻ろうかな。


「お前最初から俺に興味無かったよな」

「えっ、……え、全ての女性が自分に興味持つと思ってるの?」

「あぁ? 」


えぇ!? 怖いよ何で睨むの!? だってビックリした、何今の、私が興味持たないのが不思議って言ってるようなものじゃん。イケメンの思考凄いなって思って聞いただけなのに睨まれたし凄まれたよ。
これの何処が王子様なの? 顔だけ良ければ王子様なの? 私はこんな王子様嫌だ。


「……や、すみませんね、私彼氏居るもので。」


出来たの先月だけどね。でも最初から別に興味ない、こんな私にだって一応好みと言うものがありますので。

そして聞いといて特に興味無いんだろうな、横目で寄越されてた視線も直ぐに無くなり機嫌悪そうに苛々してる。怖い。


「あのメス豚どもの中にも彼氏持ち居んだろーが」


メス豚!?!? いや確かに今しがたここに現れた女性陣の中に彼氏持ち居たけれど、そんな事よりメス豚って!! 普段笑顔張り付けた王子様は内心ではあの人達をメス豚って思ってたの……、何て事なの……怖い、怖い


「お前さぁ」

「ひゃい!?」

「は? 何ビビってんでィ」


だって怖いよ何この人怖い、本性怖すぎてビールが喉を通らないよ怖い、メス豚なんて台詞実際聞く事があるなんて思わなかった。


「だって、っ、メス豚って、あなた、王子様って言われてるのにっ、」

「はぁ? 王子様って。過ごしづらくなんの面倒だし適当に愛想振り撒いてるだけでさァ、俺は元々こんなんでィ。」

「元からメス豚とか言っちゃうんだ」

「重点そこかよ。うぜェ奴にしか言ってねーよ多分。」


多分……。イケメンに隠された本性恐ろしい、闇を見た。


「……部屋戻らないの?」

「戻れねんでさァ」

「戻れない? あ、鍵?誰か部屋に居ないの?」

「部屋で寝てたら女どもに襲われかけた」

「え? 勝手に部屋に入って来てたの?オートロックなのに?」

「大方同室の奴を酒で潰して部屋のキー奪ったんだろ。」

「……」


そんな事あるんだ……いくら男でも数人の女に勝手に部屋に入られて、寝てる間に囲まれて? 襲われ掛けて? 恐怖でしかない。逆だったら完全に犯罪だよ、ニュースになるレベルだよ、いやいや逆じゃなくても犯罪だよね、ごめんね。メス豚発言よりあの人達の方がよっぽど怖いね。


「……ビール飲む? 買ってあげようか」

「飲む」


気の毒過ぎる。まだ追い掛けて来てるって事はただ逃げて来たって事なのかな、揉め事起こせば仕事はしづらくなるだろうけど、私だったらそんな事してくる人達と同じ職場嫌だな。


「犯罪レベルだし許される事じゃないと思うんだけど、上司に相談出来ないの?」

「迷惑掛けたく無ェし」

「あれ意外と上司思いなんだね、いつも悪態付いてるのにちゃんと慕ってたんだ偉いね。」

「まさか土方の野郎の事言ってんじゃねぇよな、俺が慕ってんのは近藤さんだけでィ」

「あぁ近藤さんかぁ、納得。じゃあどうするの? 仕事に支障出るでしょ」

「3ヶ月経ったし、そろそろ動くから平気でィ。チー鱈旨ェな、ピスタチオも開けていい?」

「うん」


逞しい、慣れてるのかな。でもそんな事に慣れてるのも気の毒に、勝手に部屋に入って来るなんて怖すぎるよ、自分がやられたら絶対嫌な筈なのに何でそんな事出来るんだろう。


「肉食いたくなって来んな」

「あー、分かる私もお酒飲むと食べたくなる、何か食欲増すし」

「いつだったかお前がつくねの店入ってくの見たけどあそこ旨い?」

「生つくねの所かな? 私のお気に入りなの、串もの種類豊富だし安いし美味しいよ。お酒もカクテルあるからあんまり飲め無い子とも行けるし。」

「あー、どーりで混んでるわけだ。毎回予約してんの?」

「ごめんちょっと宣伝混じった、友達のお父さんが経営してるんだよね。予約はしてない、角部屋いつも空けといてくれてるから。」

「ならお前と行ったら入れるんで?」

「入れるけど私の友達にメス豚とか言わないでよ。」

「友達連れてくんじゃねーや、居ねぇと入れねぇの?」


どう言う事? え、二人で行くって意味じゃないよね、私二人きりで飲みとか無理だよ、気まずくてお酒処じゃない、楽しめないよ。


「……二人って意味? 私、こう見えて人見知りで、」

「今普通に喋ってんだろーが。」

「………………ホントだ。」


あれ本当だ、普通に喋ってた。 横を向いたらちゃんと目が合った、顔は見れても中々目を合わせるの難しいのに平気みたいだ。チー鱈咥えてるエセ王子がじっとこっち見て来てる。


「化粧してねぇと顔ガキみてぇ」


あぁ、そっか。どうでも良いからだ。気まずくなるのは何とか場を繋ごうと気を配ってるから、人見知りも変に思われたくないって身構えてるから緊張する。だけどこの人にそこまでの気遣いをしようと思わない、気の毒とは思ったけど恐らく本当に平気なんだろうと思っちゃうし何か逞しそうだもんね。

この人は普段適当に流してるだけなんだ、私も平和に過ごしたいから笑顔振り撒いてるけど適度な距離感を保つ為だから似たり寄ったりなのかな。


「余計なお世話ですー、彼氏にスッピン可愛いって言われたもん」

「ロリコン?」

「どんだけ幼くなってんの!? 」

「飲みにも行けねぇくらい彼氏に従順には見えねぇけど、もしそうなら修羅場巻き込まれんのは御免なんで行かねぇ。ただこの事をメス豚どもにバラしたら有ること無ぇこと尾ひれ付けて噂の対象をアンタにすり替える。」

「別にバラさないよ、てか他人にそこまで興味ない」

「あぁそんな感じ、従順に尻尾振ってるんで?」

「言い方! 飲みにくらい行ける、あっちも同僚達と飲み会あるって言ってたし」

「終電無くなったとか抜かしながらわざとらしく腕に絡み付いて来る女どもが居る飲み会?」

「そんな恐ろしい飲み会知らない。本当に大変そうね、その人達どうするの? 可愛かったらお持ち帰り?」

「後が面倒くせぇだろ、捨てて帰る」

「放置したんだ。」


タクシー呼んであげる優しさは無いのね、なのに何で王子様なんだろう。やっぱり顔だけ良くても王子様なのかな。



「初回は奢ってやらァ」

「えっ、やったぁ!」

「いつでも空いてんの?」

「基本割りと入れるね、ふらっと一人でも入りやすいから突然行っちゃったりしてる」

「ふーん、なら次出勤の日にでも行こーぜ」


だからここはお前が奢れとおかわりを要求され、話せば話すほど全く王子の欠片も無いし土方さんを敵視し過ぎだしエセ王子だったけど、不思議とウマがあって仲良くなりました。






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